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地下への打ち込み断念
現在火星表面で運用中の米航空宇宙局(NASA)の「インサイト」は火星の内部構造を調査することにほぼ特化した史上初の探査機です。2018年5月に打ち上げられ、半年後に火星の赤道付近にあるエリシウム平原に軟着陸しました。
「インサイト」には、地震計と熱流量計、電波で内部を調べる装置などを搭載しています(図1)。熱流量計はドイツで開発した装置で、着陸後に地面から3メートルより深いところに打ち込み、火星の内部から地表へ伝わっていく熱を測定する計画でした。そしてその歴史的な打ち込み作業は、19年2月に開始されました。ところが、火星の土壌が予想外に固まりやすく、なかなか打ち込めないのです。そこでロボットアームの先端を使って土壌を崩そうとするなど、いろいろと工夫をしたのですが、成功しません。
今年1月9日には、熱流量計の先端が2、3センチの土壌に入り込んだ状態から、実に500回にもわたって打ちつけたのですが、やはりうまくいきませんでした(写真)。みんなで議論・検討した結果、ついに断念することに決めたそうです。
地面の下で熱がどのように流れてきたか、その歴史を調べれば、火星の内部から地表へ熱がどういうふうに移動してきたかが判明します。それによって、火星の成り立ちや、地球・金星・水星など他の岩石惑星の歴史についても理解が進むことになるので、熱流量計の埋め込みは国際的に非常に期待されていたのですが、残念な結果に終わったようです。
ただし、もう一つの重要な観測機器である地震計は活躍しています。着陸後にエリシウム平原の地表に設置された「インサイト」の地震計は、これまでに火星の地震を500回近く記録しています。地震が起きると、その震動を伝える波が、震源から天体の内部を通って伝播していきます。たとえ天体の反対側で発生した地震でも、地震波の伝わり方を調べれば、それがどのような場所を通過しながら伝わってきたかが推定できます。だから、地震の起きる天体では地震の観測をきちんとすれば、その内部構造を解明できますね。
私たちの住む地球の内部構造の解明も、地震波の観測に負うところが大変大きいのです。実は1970年代にも、アメリカの火星探査機バイキング1号、2号が、地震計を搭載して着陸したのですが、このときは地震計がバイキングの上の方についていたため、あまり有効なデータが得られませんでした。いま火星に降りている「インサイト」は、地球以外の惑星で初めての本格的な地震観測を行っているのです。
その地震計によるこれまでの貴重な観測結果に加え、NASAは、これから火星の中心部にある核が液体か固体かを調べるための電波実験なども進めることにしています(図2)。あと2年くらいは観測を続行するので、その結果を楽しみに待つことにしましょう。
的川泰宣さん
長らく日本の宇宙開発の最前線で活躍してきた「宇宙博士」。現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の名誉教授。1942年生まれ。
日本宇宙少年団(YAC)
年齢・性別問わず、宇宙に興味があればだれでも団員になれます。 http://www.yac−j.or.jp
「的川博士の銀河教室」は、宇宙開発の歴史や宇宙に関する最新ニュースについて、的川泰宣さんが解説するコーナー。毎日小学生新聞で2008年10月から連載開始。カットのイラストは漫画家の松本零士さん。
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からの記事と詳細 ( 的川博士の銀河教室:的川博士の銀河教室 634 米国の火星探査機「インサイト」の熱流量計 - 毎日新聞 )
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