一部に根強い反対論がある中での英断を評価したい。
岸田文雄首相は電力需給の逼迫(ひっぱく)が懸念される今冬に備えて、最大9基の原子力発電所の稼働を進めるよう萩生田光一経済産業相に指示した。日本全体の電力消費の1割に相当する量で、過去3年間で最大の供給力を確保できるという。
昨年来、何度も繰り返された電力不足は経済の圧迫要因になっていた。今年3月、東京電力と東北電力管内で初めて「電力需給ひっ迫警報」が発出された時には、社会全体が大規模停電の脅威にさらされた。
東日本大震災後、原発に代わってベース電源の主役となったのは石炭火力発電所だ。しかし石炭火力は、気候変動問題への配慮から縮小を余儀なくされている。また再生可能エネルギーの多くは不安定で、特に厳寒期には発電量が十分に確保できないケースが多々あった。
こうした構造的な電力不足の懸念に対し、産業界は原発の再稼働を含めた安定供給策の強化を繰り返し求めてきた。しかし政府の動きは鈍かった。遅まきながら再稼働に積極姿勢を示したのは意味のあることだ。
とはいえ、関係者によれば再稼働する9基は西日本の原発を想定しているという。東西に分かれた日本の電力供給網の構造から、東日本の電力不足の解消には至らない恐れが大きい。
東日本でも、すでに複数の原発が東日本大震災後の新たな安全基準に合格している。地元に安全性を十分に説明し、理解を得るなど政府が再稼働を後押しするべきだ。
首相が会見で、原発に関して「安価で安定的、かつ脱炭素に対応」と述べたことも特筆したい。既存原発の事後的な改修には巨額の費用が必要だが、本来の原子力は低コストでクリーンなエネルギーである。安全を最優先に、長期的に原子力の活用の道を探るのが望ましい。
日本経済の再生に電力の安定供給は欠かせない。電力自由化後の供給責任は、事業者だけでなく政府にもある。再稼働への国民の理解を得られるよう、政府の努力を求める。
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