連載:野口悠紀雄のデジタルイノベーションの本質
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各国ではコロナ対策として財政拡大と金融緩和を行った。それによって米国ではインフレが生じたが、日本では米国と同様のインフレは生じず、異なった要因で物価が上昇した。なぜ日米でインフレに格差が生まれているのか。そして日本は、物価上昇に対していかなる政策をとるべきなのか。その1つの答えを、「総需要」「総供給」という概念を使い、金融政策がどのような経済を招いたのか、あるいは招くのか、を分析することで導き出すことができる。
1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを歴任。一橋大学名誉教授。
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「需要」「供給」とは何か
米国では、対コロナの経済政策とその後遺症としてインフレが生じた。これによって、世界の経済は大きな問題に直面している。この状態を、「総需要」「総供給」あるいは「需給ギャップ」などの概念を用いて分析することができる。「総需要」「総供給」の概念はマクロ経済に関するものであり、その出発点になっているのはミクロ経済学における需要と供給の概念だ。そこでまず、ミクロ経済学における需要と供給から説明を始めよう。
経済学では、ある財(またはサービス)に対する「需要」と「供給」という概念が基本になっている。これらは、財ごとの価格に依存する。ここで「価格」とは、ほかの財に対する相対価格だ。
一般に、価格が高くなる過程において、その財に対する需要は少なく、供給は多くなっていく。したがって、横軸に財の(需要・供給の)量、縦軸に価格をとって図を描くと、需要は右下がりの曲線で、供給は右上がりの曲線で表される(図1)。
ある価格で、当該財の需要が供給より少なければ、価格が下がる。これによって当該財の需要が増え、供給が減る。この調整過程は、需要と供給が一致するまで行われる。行き着いた状態が均衡であり、そこでの価格が均衡価格だ。
「総需要」「総供給」とは何か
以上で考えたのは、1つの財に対する需要と供給だ。この考えを経済全体に拡張して、「総需要」と「総供給」を考えることができる。これは、経済統計でGDPとして計算されているものに相当する概念だ。外国との取引がない経済(閉鎖経済)では、GDPを総需要として見ると、消費、設備投資、住宅投資、政府消費、政府投資からなる。一方、総供給は産業別の産出物によって示される。ここで、産業別とは、農林水産業、製造業、非製造業などの区別だ。非製造業はさらに、建設業、卸売・小売業、サービス業などに細分される。
外国との取引がある経済(開放経済)では、以上のほかに、輸入と輸出がある。輸入は総需要の構成要因、そして輸入は総供給の構成要因だ。
経済全体の「価格」は何を指す?
総需要と総供給のモデルでも、「価格」を考え、「総需要曲線」と「総供給曲線」を考えることができる。そして、横軸に需要量と供給量、縦軸に価格をとって、総需要曲線と総供給曲線を描く。ここでいくつかの注意が必要だ。まず、価格について。個別の財・サービスの場合、価格とはほかの財やサービスに対する相対価格のことだった。では、「総需要曲線」と「総供給曲線」のモデルにおける「価格」とは何か。
すべての財・サービスをまとめて考えているのだから、相対価格ではない。経済全体の価格水準だ。これを表すものとしてしばしば使われるのは、消費者物価指数だ。たとえば、日本銀行が金融政策の目標として設定しているのも、これだ。
ただし、総需要の中には消費だけでなく、投資(民間設備投資、住宅投資、政府投資)、そして政府消費なども含まれている。ところが、消費者物価とは消費財の価格であるから、総需要を考える際には、消費者物価よりも広い概念のものを用いなければならない。
そのようなものとして、「GDPデフレータ」がある。GDPデフレータとは、GDP統計で示される価格に関する指数を言う。ただし、実際の分析において、必ずしもGDPデフレータが用いられるわけではない。
経済全体の物価の指標として、消費者物価が用いられることがしばしばある。このあたりの扱いは、かなり曖昧であると言わざるを得ない。また、水準なのか伸び率なのかもはっきりしない場合がある。
このような問題があるが、以下ではこれを「一般物価水準」と呼ぶことにし、これをpで表す。このモデルでは、すべての変数は、名目値をpで割った「実質値」で表される。
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