[東京 17日 ロイター] - 政府が月内にまとめる経済対策は、成長力につながる国内投資促進が柱の1つになっている。日銀短観などでみる企業の設備投資意欲は旺盛だが、足元は一部の統計が足踏み状態を示しており、移ろいやすい経営者のマインドを対策で後押しすべきだとの意見が政府内に出ている。需給ギャップが解消に向かう中、需要サイドへの働きかけが物価上昇圧力となるのを避けたいとの思惑もあり、供給力強化に焦点を当てる方針だ。
<堅調な設備投資計画>
日銀が2日発表した9月の短観では、2023年度の大企業全産業の設備投資額が前年度比13.6%増と、6月調査の13.4%増から上方修正された。民間エコノミストの間では、国内企業の設備投資は堅調との見方が大勢を占めている。
ただ、足元の経済指標の結果は必ずしも整合的ではないようにもみえる。
例えば、内閣府がまとめている機械受注。8月は設備投資の先行指標として注目される「船舶・電力を除く民需」が前月比0.5%減となり、基調判断の表現は10カ月連続で「足踏みがみられる」とされた。
日銀が公表した4─6月期の資金循環統計では、企業部門で前期並みの資金余剰が継続。第一生命経済研究所の星野卓也・主任エコノミストは「過去数4半期、資金不足に入っていく兆しもみられたが、国内設備投資が足踏みする中で資金余剰主体へ回帰している」と指摘している。
<強い数字に「トリック」>
日銀短観の設備投資計画の強い数字には「トリック」があり、そもそも増勢は見かけほど強くはないという指摘も一部から出ている。一つは、短観の数値が名目(金額)ベースであるという点だ。
設備投資の多くを占める資本財の価格は上昇傾向が続き、日銀が企業物価指数の一環としてまとめている「最終需要・中間需要物価指数」では、22年9月から23年8月にかけて輸入品を除いた「資本財(国内品)」価格が前年比3─4%台の上昇となっていた。
みずほ証券の小林俊介チーフエコノミストは、機械類を中心とした資本財の価格が高止まりする中、名目値は膨張して見えやすい性格を持つため、統計をみるうえで注意しておく必要があると指摘する。
また、大企業の設備投資計画は期初から年度途中まで上方修正され、年度後半にかけて下方修正されていく「山型」の修正パターンをたどる傾向がある。00年度以降の平均的な修正パターンでは、9月時点の計画に比べ、年度末の実績は低くなるのが通例だ。
<業績好調でも慎重>
10月のロイター企業調査では、今年度下期の設備投資計画について1割強が減額すると回答した。減額理由は内需の弱さが45%、原材料などのコスト高が42%、世界経済の先行き不透明感が39%、中国経済の減速が32%だった もっと見る 。企業が設備投資に対してやや慎重化した可能性がある。
企業の設備投資動向に詳しいエコノミストは「企業業績は増収増益基調で、資金がないから投資できないという感じではない。設備投資も持ち直しが継続するのが基本シナリオ」と話す。ただ、期初の想定より中国経済の回復が鈍く、国内も物価高の状況が続いており、経営者が先行きを慎重に見極めるスタンスになるつつあるという。「慎重姿勢が強く出すぎてしまうと、年度末の着地もすこし低くなってしまう可能性がある」。
<供給力強化、物価に留意>
ある政府高官は「企業の投資計画は強いが、4─6月の実質GDP(国内総生産)をみれば、まだ弱くて不安定」との認識を示す。1次速報値で前期比0.03%増だった民間企業設備は、先月8日の2次速報値で同1.0%減に下方修正された。
首相周辺の一人は「設備投資は企業活動の起点。長い時間をかけてようやく上向きになってきた経営者のマインドを後戻りさせないためにいろんな仕掛けをしていく。それを対策に盛り込む」と話す。
10日の経済財政諮問会議では民間議員から、需給ギャップが解消に向かう中、経済対策は物流のボトルネック解消や半導体のような地方における投資など「特に2─3年以内に供給力強化に資する施策に資源を集中させるべき」との提言が出された。
経済官庁のある幹部も、対策について「需給ギャップは改善しつつあるので、需要を追加することによる物価への影響を気にしないといけない」と指摘。設備投資支援も中期的に必要なGX(グリーントランスフォーメーション)関連などへ選別的に行う必要があるとの認識を示している。
岸田文雄首相は4日、国内投資拡大のための会議で、直近30年間はコストカットを目的に人への投資や設備・研究開発投資が削られてきたが、大きな変化の兆しが見られつつあると指摘。「設備投資は名目100兆円という史上最高水準となる見通しであり、来年に向けてこの勢いを維持・拡大していく」と語った。
編集:石田仁志
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