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Thursday, July 30, 2020

AI開発や金融機関をはじめニーズが拡大している中小規模のオールフラッシュとは? - ITmedia

 大企業向けストレージ製品は、いまやオールフラッシュが当たり前となってきた。少し前までは「高速だが高価」といわれてきたオールフラッシュだが、価格下落が急速に進み、HDDに匹敵するほどの容量単価を実現する製品も出てきた。

 オールフラッシュの用途も、かつては高速なデータベースアクセスを目的としたSAN(Storage Area Network)製品が主流だった。だが大容量の非構造化データを扱う業務範囲が拡大した現在、ファイルサーバ用のNAS(Network Attached Storage)でもオールフラッシュは珍しくない。

 とはいえ、オールフラッシュといえばどうしても大規模かつ高速な「ハイエンド用途向け」というイメージが強かった。そのため中小規模向けのNASは、旧来のHDD構成やHDDとSSDのハイブリッド構成が主流だった。しかしここに来て、「小規模で予算は少ないが、オールフラッシュの高速性のメリットを享受したい」というニーズがさまざまな業種、業態で出てきた。

 本稿は、中小規模のオールフラッシュの活用が期待されるAI(人工知能)開発や金融、ライフサイエンスといった複数の分野を例に、新たなビジネスニーズに応える製品を紹介する。

スケールアウトNAS「Isilon」が「PowerScale」へとブランド変更

 オールフラッシュストレージ製品の代表的なベンダーがDell Technologiesだ。Dellと合併する前のEMC時代から、幾つものオールフラッシュストレージ製品を世に送り出してきた。その一つがスケールアウトNAS製品「Dell EMC Isilon」だ。

 Isilonは、ノード追加により容量とパフォーマンスをともに拡張できるスケールアウトNASの代表的な製品として世界中の企業に導入されてきた。同製品のブランド名が「Dell EMC PowerScale」に変更された。変更の背景について、Dell Technologiesの吉武 茂氏(UDS事業本部事業推進部 シニア市場開発担当マネジャー)は次のように説明する。

Dell Technologies 吉武 茂氏

 「これまでDell EMCで扱ってきたインフラ製品を、現在“Power”ブランドの下に再編しています。ハイエンドストレージアレイ製品『Dell EMC VMAX』は『Dell EMC PowerMax』へ、ミドルレンジ製品は『Dell EMC PowerStore』という新ブランドを発表しています。スケールアウトNAS製品のIsilonもPowerブランドに組み込むことで、お客さまのインフラを全てPowerブランド製品で網羅できるようになりました」(吉武氏)

図1 PowerScaleとは(出典:Dell Technologies)《クリックで拡大》

 このブランド変更と同時に、注目すべき新製品がリリースされた。それが「Dell EMC PowerScale F200」と「Dell EMC PowerScale F600」だ。どちらもオールフラッシュのスケールアウトNASで、旧Isilon製品と同じくOSとして最新版「OneFS」を搭載するが、ハードウェアは新たにDell Technologiesのサーバ製品「Dell EMC PowerEdge」を採用している。

 最も注目すべきは、両製品のキャパシティーだ。これまでIsilonは「F800」「F810」というオールフラッシュ製品をラインアップに並べていたが、記憶容量は96TB(最小4ノード構成での物理容量)からと比較的大きく、価格も高かった。今回新たに加わった2製品は中小規模での利用を前提としているため、F200は11TB(最小3ノード構成での物理容量)から、F600は46TB(最小3ノード構成での物理容量)からと、最小構成時の容量が小さい。製品価格も抑えられており、筐体のサイズも4UサイズのF800と比べ1Uとコンパクトだ。

 「業界を問わず、多くのお客さまからハイエンドのオールフラッシュソリューションと同じ効果を小規模環境でも得たいという要望を頂いていました。また通常のファイルサーバとして利用される場合も、『OneFSの自動階層化機能を用いて、古くなったファイルはHDDの低速で安価なアーカイブ製品に保管し、頻繁に利用するファイルを小規模なオールフラッシュ製品に配置したい』といった声もありました」(吉武氏)

図2 新たに登場したPowerScale F200/F600(出典:Dell Technologies)《クリックで拡大》

GPUとオールフラッシュNASを組み合わせたAI開発環境

 先述のようなオールフラッシュの「スモールスタート」のニーズが高い用途の一つに、AI(人工知能)開発がある。

 ディープラーニングなどの機械学習を用いたAIモデルを開発するには大量の学習データを投入して膨大な量の演算処理をする必要があり、ストレージのスループットが作業スピードを大きく左右する。

 この領域で、旧Isilonのオールフラッシュ製品は広く活用されてきた。特に、AIモデルの学習処理に欠かせないGPUのメーカーとして知られるNVIDIAとは密接な協業関係を築いており、共同でさまざまな製品、サービスを提供してきた。

 「Dell Technologies製品だけで構成したAI向けアーキテクチャ『Dell EMC Ready Solutions for AI NVIDIA』は、NVIDIAのGPUを搭載したPowerEdgeサーバとF800を組み合わせ、事前に設計・検証した最適なソリューションを提供しています。また、NVIDIAのAI向けサーバ製品『DGX-1』『DGX-2』とF800を組み合わせたレファレンスアーキテクチャも提供しています。ベンチマークテストでは極めて高い処理性能を記録しており、その結果はホワイトペーパーとしても公開しています」(吉武氏)

 ただし、ハイエンドなシステムは極めて高いパフォーマンスを発揮する一方で、高価で大型なシステムになるため、気軽に導入できない。吉武氏によると、パブリッククラウドでAIソリューションのPoCを終え「そろそろオンプレミスにAIの開発環境を導入してみるか」という段階のユーザーにとっては、導入ハードルが極めて高かったという。

 そこでDell TechnologiesはF200とF600のリリースを機に、中小規模のAI開発環境の提供も検討をしている。例えば、NVIDIAのGPUを搭載したハイエンドワークステーション「Dell Precision 7920」やGPU搭載サーバ「Dell EMC PowerEdge C4140」、あるいは「Dell EMC PowerEdge R740」とF200を組み合わせて、比較的コンパクトで低価格でありながらオールフラッシュの特性を生かした高処理性能を発揮するアーキテクチャも今後リリースを計画しているそうだ。

オールフラッシュで金融市場の高速シミュレーションを実現

 現在、米国を中心にニーズが高まっているのが、オールフラッシュNASを使った金融データの大量・高速処理だ。特にヘッジファンドなどで、過去の為替データをビッグデータ分析にかけて将来の相場動向を予測することで、より最適な投資を実現しようという動きが出てきている。

 「ビッグデータ分析をより高速にしたいというニーズが高まっています。投資家にとっては投資の“タイミング”が命ですから、予測の正確性はもちろんのこと、スピードがとても重要です。大量の非構造化データに高速にアクセスできるPowerScaleのようなNAS製品が求められているのです」(吉武氏)

 事実として、旧Isilonのオールフラッシュ製品は米国金融業界のベンチマークテスト「STAC-M3」で極めて高い性能を出している。この分野でも近年、中小規模のソリューションに対するニーズが高まっているという。

 「従来は主に、大規模なヘッジファンドや金融機関がビッグデータ分析基盤を導入してきました。これからは中堅規模の金融機関も為替データをビッグデータ分析にかけ、市場動向をシミュレーションするでしょう。そうしたニーズに応えるため、今回新たに登場したF200に比較的小規模なAI開発環境を組み合わせ、これまでよりも安価に市場動向や相場のシミュレーションが可能なソリューションの開発を進めているところです」(吉武氏)

ライフサイエンス領域における遺伝子解析にも威力を発揮

 医療や創薬研究といった「ライフサイエンス」の分野でも、現在オールフラッシュNASに注目が集まっている。その背景には、この分野における「遺伝子解析」のニーズの高まりがある。

 今日の医療では遺伝子解析技術が重要な役割を果たし、今般の新型コロナウイルス感染症をはじめさまざまな疾病の治療法の研究や医薬品の開発において、大量の遺伝子情報を処理する必要がある。これを少しでも効率化、高速化しようと、技術の開発が進んでいる。例えばNVIDIAが自社のGPUを用いて遺伝子解析処理を効率化、高速化するために提供している、ゲノム配列解析ソフトウェア「Parabricks」もその一つだ。

 Dell Technologiesも、旧IsilonのオールフラッシュNAS製品とParabricksを組み合わせて遺伝子解析の高速処理に最適化したシステムを提供している。これまで複数の大学や研究機関がこれを導入してきたが、規模が大きく高額だったため、予算が潤沢な規模の大きい大学病院や研究機関での導入にとどまっていた。

 しかしF200のような小規模向け製品が登場したことで、中小規模の医療機関や研究機関にも高速な遺伝子解析処理プラットフォームを導入できる機運が高まってきたという。

 「特にアジア圏(日本、インド、東南アジア)では、欧米と異なり中小規模の導入ニーズが高い点が特徴です。そこで日本を中心に米国本社と掛け合い、F200とParabricksを組み合わせた比較的小規模な遺伝子解析処理プラットフォームの検証を進めてもらっています。あと数カ月もすれば、正式に技術資料を発表できる見込みです」(吉武氏)

 この他にも、メディア、エンターテインメント業界での映像データ管理や、分野を問わず大容量の非構造化データのクラウド連携、「Amazon Simple Storage Service」(Amazon S3)互換APIでの各種ビッグデータ分析ツールとの接続など、今回新たに登場したF200やF600を使った「小規模かつ低コストのオールフラッシュNAS」の適用領域は幅広い。

 「先述したように、海外と比べて日本は業界問わずオールフラッシュNASを用いた大量・高速処理基盤を“スモールスタート”で始めたいというニーズが高まっています。F200およびF600は、単に小規模から始められるだけでなく、同じくPowerScaleシリーズのアーカイブ向け製品『Aシリーズ』や、SSDとHDDのハイブリッド製品『Hシリーズ』と組み合わせることで、大容量の階層化ストレージも実現できます。PowerScaleへのブランド変更を機に、こうした新たな価値をお客さまに提案していきます」(吉武氏)

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