[ニューヨーク 30日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 新型コロナウイルスのパンデミックは、世界のサプライチェーン(供給網)を混乱に陥れた。そして、米国の取引所への上場を目指す企業もまた、「供給」の問題を抱えている。新規株式公開(IPO)案件が多過ぎるのだ。新興インターネット証券ロビンフッド・マーケッツの自信満々だったIPOは失敗に終わり、バッテリーメーカーのクラリオス・インターナショナルはIPOを延期した。青果大手ドールは仮条件レンジを引き下げた。他の案件はもっとましな結果だったとはいえ、今は買い手である投資家側に資金の振り向け先を選ぶ余裕が生まれている状況だ。
ディールロジックによると、今年これまでに米国上場を果たした事業会社は265社前後と、昨年全体の209社を既に上回った。調達額は1000億ドル強で、年間ベースでもITバブル絶頂期の1999-2000年以来目にされなかった規模だ。特別買収目的会社(SPAC)の米上場を含めれば、その数と調達額はさらに大きくなる。年初来のSPACの上場数387社も昨年の248社を超え、調達額はやはり1000億ドル余りに達した。
もちろんまだ取り込める資金は十分残っている。今年これまでにSPAC以外で上場した企業の取引初日の平均値上がり率は39%。例えば高級バーベキューグリル製造のトレガーの株価は7月29日、22%上昇した。
しかし今年のIPOの急速な増加ペースからすると、さすがに「過剰在庫」が発生しておかしくない。現に320億ドルの評価額でIPOに踏み切ったロビンフッドは7月29日の取引初日に8%下落した。通常は機関投資家向けに割り振る株の一部を個人投資家のために用意したため、上場初日に株価をゆがませるような買い注文殺到を避けられたという言い方もできるかもしれない。ただ、幹事金融機関はなおも、上場直後の値上がりを演出できるような価格設定を狙っている。
ドールは7月28日、IPOの仮条件レンジを引き下げた。カナダのブルックフィールド・アセット・マネジメント傘下のクラリオスは、米上場を通じて20億ドル近くを調達する計画だったが、現在の市場環境を理由に挙げて30日にIPOの延期を表明。アルティスが所有する広告プラットフォーム企業ティーズもIPOを先送りした。
幾つかの警報が鳴り響いている。一部の有力銘柄、特に中国配車サービス大手の滴滴(ディディ)グローバルは深刻な状況に直面している。ディディの株価が1カ月前の米上場以来30%下がっている背景には、中国政府の動きが影響しているという事情がある。それなのに、中国当局の海外上場規制強化を無視して米国上場を模索する中国企業はまだあまりにも多い。
より幅広い指標になり得るのが、上場企業のその後2年間の値動きを反映するルネサンス・キャピタルIPO指数だ。今年の同指数は、S&P総合500種が20%近く上昇したのと対照的に小幅下落で推移している。IPO銘柄を何も考えず手当たり次第に買う局面はもう終わっているということだ。
●背景となるニュース
*ロビンフッド・マーケッツの株価は上場初日の7月29日、終値が35ドル前後と公開価格の38ドルから8%下落した。
*ブルックフィールド・アセット・マネジメント傘下のバッテリーメーカー、クラリオス・インターナショナルは7月29日、「現在の市場環境」を理由に挙げてIPOの延期を表明した。広告プラットフォームを手掛けるティーズもIPOを先送りしている。
*青果大手ドールは7月28日、IPOの仮条件レンジを20-23ドルから16-17ドルに引き下げた。新レンジの上限で算定した企業価値は17億ドル。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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