欧州連合(EU)は26日、ブリュッセルでエネルギー相理事会を開き、8月から2023年3月までの天然ガスの消費を過去5年の平均に比べて15%減らすことで合意した。ロシアが欧州へのガス供給を一段と減らし、欧州のガス在庫が枯渇する懸念が強まっているためだ。ただ一部の加盟国に配慮して例外規定を設けるなど実効性には課題もある。ガスの安定調達に向け綱渡りが続く。
「EUはプーチン(大統領)によるガスの完全な供給途絶の脅威に立ち向かうための一歩を踏み出した」。フォンデアライエン欧州委員長は声明を出し合意を歓迎した。EUは21年にロシアから需要全体の4割にあたる1550億立方メートルの天然ガスを輸入。15%の削減が実現すれば450億立方メートルの節約になるが、例外規定を設けたことで効果は薄れる可能性が高い。詳細は今後詰める。
ガスの消費削減については、EUの欧州委員会が20日に15%の「節ガス」案を提案していた。一部の加盟国が一律15%削減に反対したため、例外規定を設けることなどで合意にこぎつけた。具体的には加盟国が自主的な目標として実現に努め、ロシアがガス輸出を止めるなどの緊急事態になれば、欧州委が目標を加盟国に強制できる。
島しょ国など他の加盟国とガス網で結ばれていない国は除外する。発電をガスに大きく依存している国は目標を免除される可能性がある規定も設けた。十分なガスの貯蔵がある場合は目標の緩和を申請できる。鉄鋼や化学など重要な産業で使うガスは目標の対象外とできるルールも設けた。
EUが合意を急いだのは、ガス在庫の枯渇懸念が再び強まっているからだ。ロシア国営ガスプロムは25日、ドイツと結ぶパイプライン「ノルドストリーム」の供給量を8割減らす方針を明らかにした。
欧州は例年、ガスの不需要期の夏場に在庫を蓄え、暖房需要が増える冬になると消費量の半分を在庫でまかなう。24日時点では、ガスの貯蔵能力は67%と平年並みの水準に回復している。液化天然ガス(LNG)の4~6月の輸入量(金融情報会社リフィニティブ調べ)を約3300万トンと前年同期比5割増やしたのに加え、ロシアからの調達を継続した効果も大きかった。
ただ欧州ではLNGの受け入れ能力が限界に近い。リフィニティブのデータによると、7月のロシアから欧州への天然ガス供給量(主要パイプライン経由の合計)は、ノルドストリームの供給が削減される前の5月と比べ7割ほど減った。LNG輸入量はすでに受け入れ能力の上限に近い水準まで増やしており、これ以上の拡大は難しい。ドイツなどが進めるLNG受け入れ基地の新設や拡充も、今冬には間に合いそうにないものが多く、ロシアからの供給減を穴埋めするのは困難だ。
石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の白川裕氏の推計によると、ノルドストリームの供給量が8割減ったままの場合、高水準のLNG輸入を続けても、欧州のガス在庫は来年2月中に枯渇するという。EUが15%削減を実行できれば、こうした枯渇リスクも下がる見通しだ。
「節ガス」は企業活動などの停滞で欧州経済を冷やす懸念がある。ロシアがさらに供給を絞る可能性もある。EUの合意後も欧州の天然ガス価格は高止まりしており、日本時間26日夜時点で、1メガワット時当たり190ユーロ台半ばと前週末比で2割高い水準だ。在庫枯渇懸念は後退しておらず予断を許さない。
(竹内康雄、蛭田和也)
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