[東京 26日 ロイター] - 半導体素材大手のJSRが官民ファンドの資金を使って非上場化を目指すのは、半導体を重要物資とみなし、関連産業の強化に動く日本政府の戦略と符号する。日本の半導体材料メーカーは高い市場シェアを持つものの、個々の企業規模はそれほど大きくないことから、競争力の維持を狙う政府が「国策」として囲い込もうとしているとの見方が専門家の間や市場で広がっている。
JSRは24日、産業革新投資機構(JIC)による同社買収案を26日の取締役会に付議すると発表した。日本経済新聞などによると、経済産業省が所管するJICがJSRを完全買収して非上場化する。
事情を知る政府関係者によると、今回話を持ち掛けたのはJSR側。同社が手掛けるフォトレジストは半導体の性能を左右する微細化技術に重要な材料で、今後も市場の拡大が見込まれる。同社は世界シェア3割を握るトップメーカーだが、半導体の需要が拡大を続け、高性能化が進む中、増産と開発投資がさらに必要になると解説する。
JSRは合成ゴムのエラストマー事業をENEOSホールディングスに売却するなど、半導体の素材事業に資源を集中しようとしているが、「売り上げ規模がかなり小さくなってしまった」と、英調査会社オムディアの杉山和弘氏は指摘する。杉山氏は、レジストの将来性が注目される中、昨年来、買収されやすいという懸念が社内でも出ていたとした上で、「日本政府としても機微技術の海外流出を阻止しようとなったのではないか」と語る。
前出の政府関係者はJICが主導した案件ではないとするものの、専門家や市場はそう受け止めていない。半導体供給網の強靭化を目指す経産省は2030年に国内半導体企業の売上高を現在の約3倍の15兆円に引き上げる目標を掲げており、「国が日の丸半導体を復活させていこうという中で、材料が非常に重要でサポートしていくということだろう」と、SBI証券の澤砥正美シニアアナリストは話す。
政府の介入で業界再編が進むとの思惑から、26日の東京株式市場でJSR株は買い気配のまま、フォトレジストを手掛ける競合の東京応化工業は急騰した。信越化学工業も一時3%高となった。
東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センターで副センター長を務める品田高宏教授は「日本は半導体材料に昔から強いと言われている」とした上で、「今回の動きが政府戦略の一環で、サプライチェーンを国策化していく布石なのだとしたら、韓国に輸出規制をしたフッ化水素なども対象になっていく可能性がある」と語る。
JSR、JIC、経産省いずれのコメントも現時点で得られていない。
(浦中美穂、ティム・ケリー、久保信博 編集:石田仁志)
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