能登半島地震の発生から3カ月が経過した。石川県薬剤師会の中森慶滋会長はじほうの取材に対し、被災地の薬局は営業不可や閉店が数店舗あるものの、医薬品供給体制は「おおむね回復した」と述べ、各方面からの支援に感謝した。医薬品の優先供給に加え、モバイルファーマシー(MP)やオンライン資格確認システムが有効に機能したことにも言及。一方、リーダー役を担う薬剤師の確保や、情報収集・分析には課題があり、次の災害対応への教訓としたいと述べた。
●14日で支援薬剤師を完全撤収
地震発生直後の1月4日午前7時時点では、県内52薬局が被害を受け、そのうち25薬局が営業不可に陥った。3カ月がたった今、復旧できていない薬局が9店舗(3月21日時点、このうち2店舗は閉局、1店舗は仮設店舗で営業)あるものの、各地域の医薬品供給体制は「おおむね平時並みに回復した」と中森氏は話す。
被災地の病院や診療所などの復旧も進んだことを踏まえ、県薬と日本薬剤師会は3月9日までに、各地区への支援薬剤師の派遣を終了した。1.5次避難所のみ1日2人の派遣を続けてきたが、3月末で日薬が撤収。県薬も4月14日をもって派遣を終了する方針だ。
●医薬品の優先供給に感謝
中森氏はこの3カ月間を振り返り、被災地の医薬品供給において限定出荷品の優先供給の効果は「大きかった」と話す。県薬の要望を受け、厚生労働省が日本製薬団体連合会などに被災地への優先供給を依頼し、実際に2社が優先供給に動いた。「優先供給がなかったら咳止めや去痰薬などは“弾切れ”になるところだった。迅速な対応に心から感謝している」と述べた。
全国各地から多くの支援薬剤師やMPが派遣されたことにも改めて感謝した。MPは最大5台が常時派遣され、各要所に固定。仮設の調剤所が設置されるまでの「つなぎ役」を果たした。「必要以上に導入したり、各避難所を動き回ると、かえって混乱を招いたと思う。日薬が的確に配分してくれたおかげで避難者の安心にもつながった」と話す。
また、オンライン資格確認システムの災害時モードは「かなり有効に機能した」と指摘。1.5次避難所での対応では、オンライン資格確認を行って患者の服薬情報を医師に伝える薬局と、調剤を担当する薬局を分けて運用することで、さらに効率化を図った。
●「処方箋なし調剤」で混乱
一方、処方箋を持参できない患者に対する保険調剤を一定条件下で認めた厚労省の事務連絡を巡っては「大きな混乱が起きた」と振り返る。「医師の処方箋なしで薬を受け取れるよう厚労省が通知」などと報道されたことで、一定の条件付きであるにもかかわらず、被災地であれば誰でも自由に処方箋なしで薬を購入できると勘違いした患者が続出した。中森氏は「県薬にもひっきりなしに問い合わせの電話がかかってきて、他の業務の妨げにもなった」とし、関係者やメディアが災害薬事の情報を分かりやすく正確に伝える重要性を痛感したと述べた。
●情報収集・分析、リーダーの確保に課題
支援活動の前線を担う県薬には、膨大かつ刻々と変化する情報を速やかに分析・判断し、的確な指示を出すことが求められた。しかし、事前の準備不足や慣れない作業だったこともあり「スムーズに進まないところもあった」と話す。事前の対策をより充実させていくことはもちろん「将来的にはAIを活用した、情報分析が短時間で行えるシステムの開発を目指すべき」と言う。
中心的役割を果たす薬剤師の確保も課題に挙げる。外部から支援に入る薬剤師は3~4日で交代し、申し送りも十分にできないため、現場の状況をよく知る「リーダー」を維持することが重要となる。だが、「自分の薬局を空けて活動を続けられる薬剤師は少数」で、結果的に一部の人に負担が集中した。災害支援に当たる薬剤師のメンタルケアも今後の課題だとした。
県薬は21日に支援活動を振り返るオンライン報告会を開く。「今回の教訓や反省を次世代へ受け継ぐことが県薬の使命」と捉え、次の災害に備え積極的な発信と対策を続ける。(持丸 拓也)
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