Microsoftは、「Azure」や「Microsoft 365」などに関する新しいソリューションを紹介するプライベートイベント「Ignite 2021」をオンラインで開催している。
基調講演は3月2日午前8時半(米国太平洋時間、日本時間3月3日午前1時半)から開始されたが、そのなかで同社のフェロー アレックス・キップマン氏は、Microsoftの新しいMR(Mixed Reality)プラットフォーム「Microsoft Mesh」を発表し、多くの聴衆の度肝を抜いた。
Microsoft Meshは、「ホロポーテーション」と呼ばれる新しいバーチャル体験で、遠隔地にいる複数のユーザーが、HoloLensのようなMRデバイスなどを利用してホログラム体験を共有する仕組みのこと。
これが近い将来コンシューマで実現すれば、Hololensを被って公園に行くとピカチュウがいる世界が実現されているだろう……少なくともバーチャルでは。
Microsoftのキップマン氏が新しいMRプラットフォーム「Microsoft Mesh」を発表
率直に言って、MicrosoftのIgnite 2021ははじまる前には、一般消費者向けにはそんなに注目されていたイベントではなかった。というのも、元々IgniteはAzureやMicrosoft 365といったビジネス向けのソリューションを説明するイベントで、一般消費者向けのソリューションが発表されるようなイベントではなかったからだ。そんな事情もあり、筆者もかなり軽い気持ちで日本時間の午前1時半からはじまった基調講演を見ていたのだが、途中で「HoloLensの父」と呼ばれるMicrosoft テクニカルフェロー アレックス・キップマン氏が登場してからは、画面に釘付けになった。
この講演でキップマン氏が発表したのは、新しいMRプラットフォームとなるMicrosoft Mesh。Microsoft Meshが目指しているのは、遠隔地にいる複数のユーザーがホログラムを共有する、そういうソリューションだと考えるとわかりやすい。
たとえば、自動車メーカーで複数の拠点で開発をしているとする。そういうときに、これまでであれば、クレイモデルと呼ばれるスケールモデルをつくって、役員に見せたりする開発だった。遠隔地にいる役員に見せる場合には、本人がクレイモデルのある場所に来てもらうか、開発者がクレイモデルをもって役員のところに行く必要があった。
しかし、Microsoft Meshがあれば、開発中の3Dデータを元にして3Dモデルをホログラムとして作れば良い。そしてそれをみんながHoloLensやVRヘッドセットを被って見れば、離れていても、同じ3Dモデルの車両がどんなのかを体験できる。
Microsoft Meshはハードウェアやソフトウェアというよりは、それらをまとめる基盤だ。HoloLens 2だけでなく、ほかのデバイスでも利用できる。具体的にはAltspaceVRのMesh対応版がリリースされているので、これを使うWindows MR、HTC VIVE、Oculus Rift/Rift S/Quest/Quest 2などで利用できるようになる。将来的には、MR/VRヘッドセットだけでなく、スマートフォンやPCなどでも利用することができるようになる計画だ。
ソフトウェア的には、Microsoftのパブリッククラウド「Azure」と連携して動作する。このため、コンテンツはクラウド側に置くことも可能。すでにHololens用にAzure側でリモートレンダリングする仕組みが用意されているため、それを利用すればクライアントデバイス側の性能はあまり考慮する必要がなくなる。この点もAzureのメリットだ。
HoloLens 2を被って街に行くと、ホログラムなポケモンが目の前に
今回Microsoftはその見せ方を非常に工夫していたのも印象的。キップマン氏がMicrosoft Meshで作ったバーチャルステージに登壇し、それをそのまま配信した。AltspaceVR経由で見ていたユーザーはまさにMicrosoft Meshのすごさを実感できたのではないだろうか。こうした新しいソフトウェアプラットフォームでは、サポートされるデバイスももちろん重要だが、何よりそのプラットフォームの上でどんなアプリケーションが利用できるのかがもっとも重要だからだ。
今回Microsoftがゲストとして呼んできたのは、ハリウッドの映画制作者であるジェームス・キャメロン氏、そしてPokémon Goの開発で知られるジョン・ハンケ氏といった、一流どころのコンテンツクリエイター。そのなかでハンケ氏は、HoloLensで楽しむことができるPokémon GoのPoC版(Proof of Concept、実現可能かを調べるために作られるプロトタイプのこと)によるデモを行なった。
現在のPokémon Goは、ARといっても2Dディスプレイ上に表示されるARであり、ホログラムではない。しかしこのMicrosoft Mesh版のPokémon Goでは、HoloLens 2のようなシースルーなMRデバイスをつけて外に出て、目の前に実際ホログラムとして見えるピカチュウに餌をあげられる。そのデモを見るかぎり、「MRもここまで来たのか」という感慨を持たずにはいられなかった。
今後、サードパーティに向けてさまざまなMicrosoft Mesh対応のアプリケーション開発を促していくという。たとえば、ビジネスユーザー向けであれば、さきほど筆者が例に出した自動車メーカーでのプロトタイプのホログラム化などは考えられるだろう。
同じような方向性としては、中国のODM工場で製品を作っているメーカーなどが、プロトタイプの出来を確認するためにこのMicrosoft Meshを使うなどが考えられる。コロナ禍の現状では、実際の工場に出かけていって製品を確認できない。しかし、Microsoft Meshを使えばホログラムで製品を離れたところにいる顧客に見せることができる。そうすれば、わざわざ現地まで出かけていく必要性はかなり下がる。
コンシューマ向けのアプリケーションなら、今回キップマン氏がやったように、ステージをバーチャル環境で実現するというかたちはありだろう。たとえば歌手のコンサートや、演劇を生配信するなども想定できる。このように、アプリケーションを考えていくとMicrosoft Meshには非常に大きな可能性があると言える。
TeamsやDynamic 365からも利用可能。未来のリモート会議はホログラフィックで?
今後Microsoftはアプリケーションの開発者に向けて、対応アプリの開発ツールを提供すると説明しており、すでにサンプルアプリケーションとして2つを提供していることを明らかにしている。1つはAltspaceVRのMesh対応版であり、もう1つはHoloLens用のアプリだ。また、Microsoft将来的にはTeamsやDynamic 365もMicrosoft Meshに対応する予定となっている。
つまり、将来のバージョンのTeamsでは、このMicrosoft Meshを利用したホログラムを利用したリモート会議が可能になるということだ。実際、キップマン氏の講演の最後では参加者がアバターでバーチャルスペース上でお祭りを行なう様子がデモされた。それがTeamsの会議でも実現可能になれば、男性が女性のアバターで参加したり、あるいはモンスターのアバターで参加したり……そんな会議は想像するだけでカオスだが、近い将来にはそんなことが当たり前になっているかもしれない。
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