人気シリーズ「バー・リバーサイド」「バー堂島」を手がける吉村喜彦さんの最新書き下ろし小説『炭酸ボーイ』が4月25日、角川文庫で刊行されました。大手飲料メーカー・サントリーの宣伝部を経て作家になった吉村さん。同社で培った酒や水の知識がふんだんに生かされた本作は、宮古島で湧き出した「天然炭酸水」をめぐる、大人の再生物語です。そもそもふつうの炭酸水と天然炭酸水は何が違うのでしょうか? 炭酸についての基本レクチャーを受けながら、本書執筆のきっかけや創作の裏側を伺いました。
取材・文:角川文庫編集部
『炭酸ボーイ』著者、吉村喜彦さんが語る「炭酸水の魅力」
炭酸には3つの種類がある
書き下ろし最新作『炭酸ボーイ』は、宮古島で突如湧き出した天然炭酸水に端を発する物語です。日本の天然炭酸水といえば、2016年のG7伊勢志摩サミットで卓上水として採用された「奥会津金山天然炭酸の水」が有名です。海外だと南フランスの「ペリエ」の源泉も自然の状態で炭酸を含んでいます。そもそも炭酸水は大きく分けて3つの種類があります。「天然炭酸水」「天然水炭酸水」「人工炭酸水」です。「天然炭酸水」は天然水が自然に発泡している水。次に「天然水炭酸水」は、天然水に後から人工的にガスを加えて炭酸水にしたもの。最後の「人工炭酸水」は天然水は使わず、純水にガスを加えたものです。
天然炭酸水についていえば、取水地の水に含まれるミネラル濃度や炭酸量で、それぞれの商品ごとに味に特徴があります。ちなみに本作で湧き出した天然炭酸水「ミヤコ炭酸水」についてはこんな描写をしています。
硬水の天然ソーダといえば、まずはペリエ。あとはサンペレグリーノだ。ペリエはガス圧が強い。サンペレグリーノは繊細。こいつは両方兼ね備えてる。すげえもんが湧き出たな
種類、商品によって様々な個性があるのが炭酸水の魅力なんです。
宮古島に天然炭酸水は湧くのか?
現実の宮古島では今のところ天然炭酸水が湧き出したという情報はありませんが、なぜこの島を舞台にしたのか。それについてちょっとお話しします。
もともと昔から何度も宮古を訪れていて、島そのものに大きな魅力を感じていたことが根底にはあります。つねづね文化というのは端っこに宿ると考えているのですが、宮古はまさにそれを体現している場所だなあと。宮古には「水」と「再生」をめぐる神話があるのですが、それが本作のモチーフにもなっています。それともうひとつ。肝心の炭酸水についてですが、宮古島には「もしかしたら天然炭酸水が湧き出るかもしれない」条件がちゃんとあるんです。宮古島の沖には海底火山があります。それが実は海底で島の北方とつながっているかもしれない。一方で宮古島はサンゴでできた島です。降った雨は地下に流れ、湧水となります。例えば、その湧水が流れ込み、持続的に供給される火山ガス(炭酸ガス)と効率良く溶け合えば、どこかで天然炭酸水が湧くのではないか。そういうことも考えて、宮古島を舞台にしました。
宮古バブルへの問題提起
物語は湧き出した希少な天然炭酸水に、リゾート開発会社が目を付けたことで急展開を迎えます。実際の宮古島でも近年、観光客が急増し「宮古バブル」と呼ばれて、様々な問題が起きています。建設ラッシュで工事関係者が賃貸アパートを借りているので、空き部屋がなく、家賃も上がり、地元の人が入れない。オジイ・オバアが病院にタクシーで行きたいのに観光客が貸切にしていて全然来てくれない。そんな現地の声を物語に反映することで、宮古で起きていることを問題提起する狙いもありました。目先のものだけを追う人間の性は、悲しいかな昔とちっとも変わっていない。その縮図として宮古があるということを知ってもらう機会にもしたかったですね。
飲みたくなる、と思ってもらえたら
それぞれ物語上のつながりはないものの、拙著『ビア・ボーイ』『ウイスキー・ボーイ』に続く、「ボーイ三部作」ともいうべき連なりに位置する本書は、前出の2作同様に、お酒についてもいろいろな話題が出てきます。たとえば主要キャラクターのひとり、コピーライターの真田秋幸が酒場でこんなことを語るシーンがあります。
やっぱ硬水仕込みの酒は、硬水の炭酸水で割るのがいい。ジャックダニエルもこの炭酸水で割ると美味いはずだ。菊正宗のチェイサーにも良さそうだ。これなら、おれも日本酒といっしょに水が飲めるぜ
コロナ禍で家飲みが増えてきているようですが、お酒についての知識が深まれば、きっと家での晩酌もより楽しいものになると思います。
近頃、炭酸水は「強炭酸」やレモンやグレープフルーツのフレイバーがついたものなど、数多くの商品を目にするようになりました。2009年頃からのハイボールブームをきっかけに、ダイエットや美容分野でのニーズや、水の代わりに料理に使う人も増えてきています。お酒をソーダ割りにして飲むことに加え、炭酸をそのまま飲む需要も高まっているようです。
ぼくのサントリー時代にはバーボンのソーダ割りキャンペーン、ハーパー・ソーダのキャンペーンをやったりしてバーボン・ブームが起きました。ハイボールの前には酎ハイやサワーが人気になったこともありましたね。なんだかんだでずっと炭酸水は需要があります。いつの時代もみんなスカッとしたいんじゃないでしょうか。いまのコロナ禍、なおさら気分だけでも爽やかになりたい。そんな心理が働いているんでしょうね。炭酸水はシュワシュワ弾ける快感を得られる『ハレの飲み物』だと思うんです。今回の作品も読んでもらってぜひ爽快感を味わってほしいですね。それで読んだあと、「炭酸水を飲みたい!」と思ってくれたら、酒や水のことをずっと仕事にしてきた“水商売人”冥利に尽きるな、と思っています。
作品情報
炭酸ボーイ
著者 吉村 喜彦
定価: 748円(本体680円+税)
爽快度100パーセント! スカッとさわやか、大人の“再生物語”
宮古島で突如湧き出した天然炭酸水。商品化にあたり宣伝広報を担うことになった真田事務所の涼太たちは、プレミアム戦略を採り、「ミヤコ炭酸水」をヒット商品に成長させた。ところが販売元のグループ会社がこの希少な水に目をつけ、採水地近くにリゾート施設の建設を計画。自然豊かで神高い土地に降って湧いた話は、村を巻きこんだ大騒動に。「大切なもの」を守るため立ち上がった〈チーム真田〉は、この計画を阻止できるか!?
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/321811000170/
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