塩野義製薬が開発中の新型コロナウイルス治療薬は、自宅で使える経口薬(飲み薬)で、コロナの脅威を大幅に減らす可能性を秘めている。先行する海外の製薬大手に追いつくため、これまでにない態勢で開発を急いでいる。
29日に記者会見を開いた手代木功社長は、「ワクチンや診断、治療薬が急速に進歩している。経済的で簡便にお飲みいただける経口薬は最後の1ピースだ」と述べた。
27日に始めた飲み薬の最終段階の治験では、医療機関だけでなく、ホテルなどで宿泊療養中のコロナ患者も対象に加えた。大勢の参加者を確保して迅速に治験を進めるためで、「これまでにない異例の態勢」(広報)で臨む。発症初期に薬を飲めば、早期に回復できる効果が期待されている。
塩野義は、開発中の新型コロナワクチンについても、年内に最終段階の治験を始め、今年度中に供給開始を目指す。ワクチンの普及で重症化を予防し、感染しても飲み薬で簡単に治療できるようになれば、新型コロナを「インフルエンザ同様」(塩野義)の感染症として扱える可能性があると期待する。
塩野義は2021年3月期の連結売上高が2971億円と、国内中堅規模の製薬会社だ。ただ、インフルエンザ治療薬「ゾフルーザ」やHIV治療薬「テビケイ」を創出した実績を持つ。感染症領域に強みがあり、手代木氏は「経営資源の8割を新型コロナ関係に充てている」と全社を挙げて対応していると強調した。
塩野義が治療薬の開発を急ぐ背景には、国際的な競争の激化がある。
先行しているのが、米製薬大手メルクだ。日米などで経口薬「モルヌピラビル」の治験を実施しており、近くデータを発表する見通しだ。米政府とは承認を前提に、170万回分を供給する契約を既に結んでおり、年内の実用化が期待されている。
米ファイザーやスイスのロシュが開発する治療薬の治験も最終段階に入っている。塩野義と比べ、「海外勢は2~3か月先を行っている」(手代木氏)状況だ。
塩野義は、最短でも5年はかかるとされる飲み薬の化合物特定を、創薬開始から9か月で果たした。手代木氏は「抗ウイルス薬、抗菌剤を手がけてきた強みが発揮されている。動物実験では(海外勢の治療薬と)同等かそれ以上の効果が得られている」と述べた。国産治療薬の早期実用化に向けて、国の審査で早期承認にこぎ着けたい考えだ。
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