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Monday, October 4, 2021

半導体不足、優先供給求める医療機器メーカー - Wall Street Journal

 コンピューター用半導体の世界的な供給不足が続く中で、医療機器メーカー各社は供給確保の競争で優位に立つための切り札を見つけたという。それは自社の製品が人の命を救うということだ。

 世界の半導体供給量のうち医療機器に使われる割合は、自動車や消費者用電子機器向けと比べればほんのわずかにすぎない。しかし、医療機器向けの半導体は、磁気共鳴画像装置(MRI)やペースメーカー、糖尿病患者の血糖値モニターなど命に関わる多様な機器の主要部品となる。大手の需要家よりも優先的扱いを受けるために、医療機器メーカー各社が最も効果的だという方策は、こうした点について半導体供給企業の幹部の認識を高めることだ。

 「新型コロナウイルス下で治療に不可欠な医療機器を停止させる張本人になりたい者は一人もいない」。富士フイルムソノサイトの事業部担当副社長、マイク・アリーナ氏はこう話す。「CEO(最高経営責任者)や上級副社長と話をすれば、彼らは助けになりたいと非常に前向きに応えてくれる」。同社は富士フイルムの米国子会社で、携帯型の超音波診断装置を製造している。

 コンピューター用半導体の世界的供給不足は、コロナ禍で在宅勤務が増える中、電子機器の需要が急増したことが要因になっている。これによって、自動車生産が滞り、ノートパソコンやプリンターの価格が上昇した。医療機器メーカーも苦境に陥っている。業界組織AdvaMedの委託でデロイトが行った医療技術企業を対象とした最近の調査によれば、回答を寄せたすべての企業が供給面の問題があると報告した。最も多く指摘された問題は、供給の遅れ、削減、キャンセルだった。

 アリーナ氏は「週ごとに異なる形での供給不足に直面する」と話す。最近の例では、通常なら3000個の発注で1個当たり1.49ドル(約165円)のはずの部品に対し、同社があるブローカーに払った代金は同65ドルだったという。

 富士フイルムソノサイトが直面する半導体不足は、新型コロナのデルタ株の感染拡大に伴う同社製機器の需要増によって悪化した。携帯型の超音波診断装置は、救急処置室や集中治療室(ICU)などで、呼吸器疾患の診断に利用される。アリーナ氏は「弊社は現在、機器への需要増に十分に対応できていない」と述べている。

 医療機器メーカーは半導体供給企業にとって好ましい顧客だ。これらのメーカーは景気後退への耐久力がある。また、製品が厳しい規制の対象になっているため、消費者向け電子機器ほど頻繁に機能がアップデートされることがなく、安定した供給先となる。さらに、医療機器メーカーは高い品質を求めるため、他の分野の企業よりも若干高い価格で半導体を購入している。

人工呼吸器を使う医療現場

Photo: Jon Cherry/Getty Images

 しかし、そうした強みがあるにせよ、医療技術セクターの規模は自動車や家電の巨大な業界と比較すると小さい。技術データ企業のオムディアによると、2020年の医療関連半導体の売上高は総額で50億ドルと、半導体市場全体のわずか1.1%にすぎなかった。

 医療機器メーカーは供給を確保するため、サプライヤーの高い義務感に訴えている。アリーナ氏によると、あるサプライヤーが9000個のチップの注文について、到着が予定より60日以上遅れると富士フイルムソノサイトに伝えてきた際には、リンクトインを使って最高経営責任者(CEO)を探し出した。同氏はそのCEOの電子メールアドレスを推測し、そのチップが医療機器に使われる予定であることを知らせるメールを書いた。サプライヤーはそれに反応し、他の顧客に供給する予定だったチップを再配分した。9000個のチップはその後の2週間で3回に分けて送られてきた。

 アリーナ氏は「私が彼らに訴えているのは、売り上げが多い顧客から部品を一部譲ってくれれば、世界のために良いことができるということだ」と話す。自分が求めているチップの量が、自動車メーカーへの割り当てにほとんど影響を与えない程度であることも、助けになっているという。

 世界最大級の医療技術企業、ボストン・サイエンティフィックも、自社製品が人々の健康改善につながるとの理由から、自社を優先してもらえるようサプライヤーを説得している。サプライチェーン(供給網)担当のシニアバイスプレジデント、ブラッド・ソレンソン氏が明らかにした。

 こうした説得の効果もあって、平均的なリードタイムが3カ月から15カ月へと5倍に増える中でも、ボストン・サイエンティフィックは早めに供給を確保できている。同社はまた、生産のスピードを上げるためや、いつでも連絡が取れるようにしておくため、一部の主要サプライヤーに自社の生産技術者を常駐させている。今のところは、ペースメーカーやパーキンソン病治療用の脳インプラントといった自社製品について需要に見合う供給を受けられているが、ぎりぎりの状態だ。

 人工呼吸器などを製造するレスメドのミック・ファレルCEOもサプライヤーに対し同様の戦術を使っている。「私は人間的な要素を強調する。皆さん、本当によく耳を傾けてくれる」と述べた。

 ファレル氏はこう言って説得するという。「あなたがたが私に提供してくださる半導体の一つ一つが、息を詰まらせている人に呼吸の贈り物を届けます」。この訴えはレスメドが受注に対応し続けるうえで一助になっていた。ところが最近になって、主要ライバルメーカーのロイヤル・フィリップスによる睡眠時無呼吸症候群向け医療機器の大量リコール問題を受け、レスメド製品の需要が急増した。

レスメド社は人工呼吸器や睡眠モニター(写真)を手掛ける

Photo: Chris Ratcliffe/Bloomberg News

 ファレル氏によれば、通常の状況であれば同社は6~9カ月以内に新規需要を満たすことが可能だった。しかし供給面での障害により、同社の生産は最短でも来春末まで制約を受ける見通しだ。

 医療機器メーカーを公然と支援してきた半導体メーカーが、ドイツのインフィニオン・テクノロジーズだ。同社は昨年のコロナ流行の初期に、レスメドが人工呼吸器を増産するのを手助けするため何百万個もの半導体を供給した。インフィニオンの広報担当者によると、同社はそれ以降、半導体の供給がひっ迫した際に医療機器メーカーを優先するケースがあった。

 業界団体のヘルスケア・リソース・アンド・マテリアル・マネジメント協会のサプライチェーン担当シニアディレクター、マイク・シラー氏によると、一部の病院では、半導体不足が理由で機器の納入遅延が長引いている。

 ただ、サプライヤーに対する医療機器メーカーの働き掛けにより、広範な機器不足は食い止められているようにみえる。米国の22州で90の病院を運営するトリニティー・ヘルスのサプライチェーン管理担当のシニア・バイスプレジデント、エド・ヒスコック氏によれば、同氏のチームは過去6カ月の間、半導体が使用されている何千もの機器の不足に備え「高度の警戒」態勢にあったが、これまでのところ不足が生じたケースは起きていない。

 ボストン・サイエンティフィックのソレンソン氏は「現状はまずまずの状態にある」と語る。「しかし、その反動は非常に大きなものになるかもしれない」

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