この夏と次の冬に、電力が足りなくなる恐れが強まっている。電気は暮らしや経済活動の土台だ。不測の大停電を避けるため、供給の確保とともに、需要のピークを抑える工夫も進める必要がある。
政府の需給見通しによると、7月に「10年に1度」の暑さの日が訪れた場合、東北・東京・中部電力の管内で、供給の余力が最低限必要とされる3%ぎりぎりになる。来年1~2月に、10年に1度の寒さが来た場合はさらに厳しい。いまのままだと東電管内は需要が供給を上回り、中部から九州までの西日本も余力が3%を下回る。
これを乗り切るため、政府は需給両面の対策をまとめた。供給側では、休止中の古い火力発電所など緊急時用の電源をかき集め、燃料調達も強化する。
需要側では7年ぶりに全国規模の節電要請を出し、家庭向けにもエアコンの温度設定などの具体策を例示した。前日に出す「需給逼迫(ひっぱく)警報」の発令時刻を早める。万一に備え、大口需要家への使用制限令や計画停電も準備する。
対策を進めるにあたって留意すべきは、一時的な需要の「山」を満たすために供給力を確保する発想だけでは、社会全体のコストがいたずらに膨らむということだ。ピークをならす取り組みは遅れており、てこ入れが欠かせない。
特に大切なのは、逼迫時に消費を無理なく抑えられる料金・契約メニューの普及だ。経済産業省の調査では、時間帯別の料金や、使用を控えたら対価を渡すメニューなどを持つ小売事業者は2割に満たない。電力業界を挙げてノウハウの共有やシステムの整備、企業や家庭への周知を進めてほしい。
各家庭の使用上限を遠隔制御できる電力量計も実用化されつつある。活用方法を考えたい。
夏や冬に供給余力が乏しくなる傾向は、当面続くとみられている。脱炭素に向けた再生可能エネルギーの導入拡大などに伴って火力発電の稼働率が下がり、採算が悪化した設備の休廃止が増えているためという。
再エネのさらなる拡大とともに、地域間で電気を融通できる送電網や蓄電池の整備を急ぐことが必要だ。適正な余力をもった電源確保を促すように、事業者が参加する電力市場の制度設計もさらに工夫すべきだろう。
電力不足を理由に、原発の再稼働を求める声もある。だが、まだ動いていない原発は、原子力規制委員会の審査や、安全対策工事などが終わっておらず、次の冬のあてにするのは無理だ。安全性の十分な確保が再稼働の大前提であることを忘れてはならない。
からの記事と詳細 ( (社説)電力供給不安 需要の山 抑える工夫を:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル )
https://ift.tt/TWSkzd8
No comments:
Post a Comment