CGWORLD.jpにて 「PHENOMENAL THINGS」を連載中のデジタルアーティスト・森田悠揮氏。同氏にとって初となる個展「OVERWHELMED」が11月2日(火)から9日(火)の1週間、 UltraSuperNew Gallery 原宿にて開催される。「デジタルで育った最初の世代」というバックグラウンドを活かし、CGを武器にアートの世界へと歩みを進める森田氏。「アートをする自分とデザインをする自分は別人」、「アートの世界ではまったくの無名」と話す同氏の主観と客観の見事なバランス感覚に、筆者自身も自分を見直すヒントを得たようだった。ときに悩みつつも、目標は明確にして軽やか。等身大で語る森田氏の「今」をインタビューした。
INTERVIEW&TEXT&EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE)
- ◀森田悠揮氏による初の個展「OVERWHELMED」11月2日(火)から
会場: UltraSuperNew Gallery 原宿
期間: 11月2日(火)〜9日(火)
時間:11時〜19時
※月曜定休日
「アートをする自分」と「デザインをする自分」はまったく別人格
CGW:今日はよろしくお願いします。CGWORLDのインタビューは4年ぶりですね。この4年間で変化はありましたか?
森田悠揮氏(以下、森田):めっちゃありました(笑)。何から何までかなり変わりましたが、アート作品を作り始めたことが一番大きな変化です。「アート」というか、作りたいものを純粋に1から100まで自分で作って、それを世に出していくという活動なんですが、これによりインプットもアウトプットもだいぶ変わりました。
CGW:好みにも変化があったのでしょうか?
森田:これまで「CGデザイナー」としてCG業界で生きてきたわけですが、良いと思うものや好きだなと思う作品の基準が「CG業界に引っ張られたもの」だったんですよ。そこからもっと広い目でいろんなものを見ることができるようになったなと。様々な展示会やギャラリーに足を運んでいろんな作家さんの作品を見たり、海外で作品を展示する機会があったり。触れるものの範囲がかなり広がりました。
- 森田悠揮 / Yuuki Morita
フリーランスキャラクターデザイナー/デジタルアーティスト/造形作家
国内外問わずアート、映画、ゲーム、広告、デジタル原型など様々なジャンルで活動しているフリーランスのアーティスト。ZBrushでの生物や怪獣などのクリーチャーデザインを得意とする傍ら、Houdiniを用いた動画、アート制作なども行う。
初の著書 『the Art of Mystical Beasts』ボーンデジタルから発売中。website: itisoneness.com
Instagram: yuukimorita
Twitter: @YuukiM0rita
CGW:CG作品だけではなく、様々な芸術作品を見る機会が増え、アンテナの受信範囲が広がったんですね。
森田:はい。CGデザイナーとして、ArtStationなどでCGアーティストの作品を追っていた時期があったのですが、今ではジャンルを問わず、様々な作家さんの作品を見るようになりました。絵画から彫刻、陶芸、ファッション......、本当に何でも。今から思うと、昔の自分は視野が狭かったし、インプットの幅も限られていたと思います。
CGW:日々の制作を通して感じる変化はいかがでしょうか?
森田:僕が学生のころは「リアルなCG」が求められていて、「いかに現実に寄せられるか」がクオリティの評価に繋がっていたように思うのですが、今は「リアルさ」や「現実世界っぽいシミュレーション」だけが良いとは言えなくなったのではないでしょうか。一昔前までは、CGは「専門的な知識と技術が必要な狭き門の世界」として職業的には「技術職」という専門的な界隈だったと思うのですが、今では高校生がBlenderを使って自由にCG作品を作れるまでになっていますよね。身近になったぶん敷居も下がったし、表現の幅も広くなって「画一的な正解」がなくなったように感じています。ベースはリアルだけどどこか誇張したり、黎明期っぽいグラフィックだったり。様々な方向性の「良い」が生まれたのがここ数年のCG界隈の変化なんじゃないかな。
CGW:技術的な上手い・下手ではなく「こういう表現もありだな」と思えるトライアル的な作品をSNSなどで見かけるようになりましたよね。
森田:そうですね。映画産業やVFXの世界においては、やはり「リアル」で「現実世界を再現する」という制作であるべきかなとは思いますが、CGの用途が広がってきたおかげで本当に様々な正解があって良いと思えるようになったし、ここ3〜4年でCGが活かされる道がずいぶん広がったように感じています。あと、ミュージシャンがミュージックビデオで使う映像を自分で作るようにもなりましたよね。CGの使い方も様々で、VFX的にリアルさを求めるアーティストもいれば、あえて初代PlayStationやPlayStation 2のような90年代風のグラフィックを表現するアーティストもいて、色んな意味で幅が広がったと感じています。CGって本当にこれからですよね。
CGW:森田さんが制作される作品の変化についてはいかがですか?
森田:前回インタビューを受けたときはキャラクターデザインの仕事を主にしていたこともあり、スカルプトやデザインに力を入れていた時期だったので「仕事の内容」を重視していました。自分が得意とするクリーチャーが作れそうな案件であれば何でも引き受けていたんです。それがここ2年で「どういう会社/誰と仕事をするか」が重要になってきたように感じます。「自分がどのように必要とされているのか」を客観的に理解できるようになったので、自分にしかできない案件なのか、そうじゃないのかがわかるようになったんでしょうね。アーティストとしては「あなただから頼みたい」と依頼してくれる方が当然嬉しいので、そういった仕事を大切にしています。
CGW:そのように考えられるようになった背景には、経済的な安定やキャリアを重ねたことで難なくこなせるようになってきた、という側面もあるのでしょうか?
森田:すごくあると思います。特に経済面は大きく変わりました。仕事を選べるようになったのも、経済的な変化による影響が多少はあるように思います。ただ、クリーチャーを作るのは今でも好きですが「アウトプットしたいものの1つ」で、あくまでも「CG業界で生きていくためにやりたかったこと」なんですよ。今はCG業界の外に出て挑戦したいことがあるので、そういう意味でも「あなただから頼みたい」と言ってくれる依頼に重きを置くようになったように感じています。
CGW:森田さんがまだ学生だった頃からインタビューをさせていただいていますが、当時からアートに関するお話をされていたし、明確なビジョンを持たれているのが印象的でした。未来を語る一方で、現時点でできる限りの挑戦をされていて、「芸術とビジネス」の両方を現実的に考えられていましたよね。
森田:そう言ってもらえると嬉しいです。一貫性があって良かった(笑)。今の自分に何ができて何が求められていて、どういった社会的ニーズとマッチングするのか。そして、そこでどのように能力を使うかを客観的に判断する力はあるかもしれません。
CGW:CGの世界は変化が激しく大変ですが、激動の中にあってもまっすぐに自分の道を突き進む姿は格好良いですね!
森田:あはは、ありがとうございます(笑)。CGは本当に毎年ソフトがアップデートされるし、覚えることもいっぱいあるし大変ですよね。自分の場合は、業界のニーズに自分を適用させるというより「ニーズを生みしてながれを作る」方が得意なんだと思います。
CGW:自分でニーズを生み出すというのは、表現者として理想的な在り方ですね。CGの世界で「ニーズを生み出す」にはどうすれば良いのしょう?
森田:CG業界の中で言えば、格好良いものやすごいものを作ればニーズは勝手に生まれると思うんですよ。クリーチャーでいうとオークだったりドラゴンだったり、これまでにあった古典的なものを作り続けるのも必要ですが、まだ見たことのないものを世の中に提示してその反応を見る。いずれにしてもとにかくすごいものを作る。そんな感じなんじゃないかな。
CGW:森田さんは現在、「デザイン」と「アート」でいうと、どちらの制作をメインに活動されているんですか?
森田:1から自分の作品を作るということであれば、今はアートがメインです。本当に自分がやりたいことはやっぱりアートなんですよ。いわゆる「CGの仕事(クライアントワーク)」もありますが、そちらは「デザイナーの自分」がやっている感じで完全に分けています。というのも、「アートをしている自分」と「デザインをしている自分」がいてほぼ別人格で制作しているんですよね。ただ、こうやって「アート」と言っているのはそう表現するしかないからで、もしかすると自分がやっていることはアートじゃないかもしれない、と思うこともあります。正確に言うと、「純粋に心の底から作りたいものをただ作って世に出して、色んな人に見てもらうという活動」なので、これをアートと言って良いのかわからないです。
CGW:なるほど。「デザイン」は依頼やニーズを受けてその要望に応えるための制作で、「アート」は自分の内側から湧き上がる衝動で制作して世の中に送り出す、ということですね。
森田:そうですそうです。アートだけで生きていけたら良いのですがまだスタート地点に立ったばかりで、ようやく11月に初の個展を開くといった段階なので、これでやっていけるのかどうかはまだわからないです。個展はその感触を確かめるための試験的な試みでもあるんですよね。
CGW:どういった作品を展示されるんですか?
森田:展示するのは立体作品9作品で、この2年で制作したものです。大きさは50〜60cmほどのものから1m50cmくらいあるものまであります。自分でギャラリーを探してメールを送って交渉して。もう完全に個人活動というか、仕事では発散できない表現が行き着いた結果といった感じです。
CGW:そういえば、2019年の年末にはNYで作品を展示されていましたよね。
森田:はい。立体作品を作りはじめた頃で、Instagramに掲載した作品を見たとあるギャラリーの人から「コンペを開催するのでぜひ参加してください」とDMが送られてきたんですよ。立体・彫刻部門とデジタル部門、絵画部門、写真部門とあって、そのコンペで選ばれるとNYにあるそのギャラリーで展示できるといったものでした。それなりに影響力のあるギャラリーのようだったし、タイミングも良かったので応募してみたら、最終的に選ばれて展示させてもらったというながれです。
CGW:そうだったんですね。あらゆるところでSNSが活用され、国境を超えたオファーも容易になりましたよね。ところで、そのコンペにはどれくらいの応募があったのでしょうか?
森田:立体・彫刻部門だと2,000作品ほどのエントリーがあって、そのうちの7〜10作品ほどが選ばれて展示されたようです。
CGW:なかなか狭き門でしたね。
森田:どうでしょうね。それこそCGWORLDで連載させてもらっているのも、たくさんのデジタルアーティストがいる中で選んでもらえているわけだし、確率的にはもっと低いんじゃないですかね。
CGW:しかし、わずかな可能性でも挑戦してみようと思える感性は、表現やイノベーションの世界では重要なポイントですよね。道を切り拓くための原動力でもありますから。
森田:そうですね。あとは、「作りたいものを作れるようになった」というのも大きいかもしれません。
CGW:そもそも「作りたいものが作れない」というのは、具体的にはどういう状態なんですか? 技術的な問題ではないですよね。
森田:作りたいものが何かに流されていたりすると満足度は低いんですよ。例えば僕の学生時代でいうと、すごい作品を作っている人がいて「俺も負けないくらいその路線で作れるようになろう」と思っていたのですが、それってその人の作品を見て競争心が働いたことで「技術的に上手いものを作ろう」としていたんです。心から表現したいものではないのに、それで満足していたところがありました。でも今は本当に心から作りたいものが湧き出てくるし、それを表現するための技術もある。アウトプットのスピードもクオリティも上がったし、何の迷いもなく自分の表現に向かって進めるようになったんです。
CGW:なるほど。自分の表現ができるようになったのは、何かきっかけがあったのですか?
森田:きっかけというのはなくて、ずっと心の中で求めていたものが噴き出してきた感じです。クリーチャーなどを作るCGデザインの仕事ももちろん楽しいのですが、結局「他人(ひと)が作る作品のほんの一部」でしかありませんから。自分の内側から出てくるものを、0から100までちゃんと表現しないと満足しないんだと思います。
CGW:ようやく「表現者としてアートの路線に乗った」といった感じですね。
森田:本当にそんな感じです。しかし、ここに来るまでめっちゃ時間がかかったなと思って(笑)。美大生なんて18歳くらいからずっとこんなマインドでものを作ってるんですよ? それに比べたら「俺、何やってたんだろう」ってすっごく思うんですよ。もちろんデザインの仕事を経験していなかったら今の表現もできていないわけで、これまでの経験は100%必要だったことは確かです。でも、最初から自分の表現や技法を探してアウトプットして行く美大生たちに比べたら、まだまだだなとすごく思います。
CGW:「遠回りをしてしまったんじゃないか」という歯がゆさは少しわかる気がします。しかしどれ1つとして飛ばすことはできない経験ですから。まだまだこれからなので焦らずに行きましょう。......お互いに(笑)。
森田:ほんとほんと(笑)、そうですね。でも今、めちゃくちゃ充実感があります。「アートの世界がいよいよこれから始まる」という感じで楽しみです。
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足下と次の一歩を見るだけ。でもたまに地図を見て確認。
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