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Wednesday, June 22, 2022

【バイデン農政と中間選挙】食料供給体制の改革(上)~米国版「地産地消」が中軸に【エッセイスト 薄井寛】 - 農業協同組合新聞

農政:バイデン農政と日本への影響

米国のビルサック農務長官は6月1日、新型コロナ感染拡大とロシアのウクライナ侵攻によって露呈した脆弱な食料供給体制を立て直すため、「食料供給網の強化と供給体制改革の計画」(以降、「食料供給体制の改革計画」という)を明らかにした。

巨額の資金が投入される4本の柱

この計画を詳細に報じた米国メディアからは、その多くが焦点を当てた次の3点を読み解くことができる。

①「地域内供給の重視」、「有機農業と都市農業への支援」、「学校給食への地場産供給増などの栄養政策」を中心とする大改革

②22億ドル(約3兆円)に及ぶ巨額の予算措置(2021年3月に成立した1.9兆ドルの新型コロナ対策救済計画法に基づき、2025年度までに支出される食料関連対策の40億ドルから拠出される)

③中小の家族経営農家と地方の関連企業を主な支援対象とする地域活性化対策の中間選挙に与える影響

バイデン政権が打ち出した食料供給体制の改革計画には、次のような4本の柱がある。

(1) 柔軟で弾力性のある食料供給網の構築と温室効果ガスの排出削減

〇いくつかの農業州に集中する生産力と流通システムの寡占化に依存してきた現在の食料供給体制は、パンデミックと供給網の混乱によってその危険性を露呈した。

〇食料体制改革のカギは生産力の分散化とローカル化。これらの実現には、多くの生産地区に農産物の集荷、加工、配送・保管の施設を整備する必要がある。これらによって生産者は付加価値の高い作物の地域内販売が可能となり、農村経済の活性化と雇用増大に貢献できる。

〇同時に消費者は農作物の地域内消費を増やし、食料供給網の短縮化で排出ガスを削減できる。

(2) 生産者と消費者が市場の寡占化と闘うことのできる公正な食料体制の構築

〇一部の大企業が市場を支配し生産者の価格交渉力を弱体化させたため、食料品の1ドル(100セント)に占める農家手取りは平均14セントにまで減少した。

〇一握りの食肉パッカーや巨大なスーパーマーケットが支配する食料供給体制には、脆弱性と危険性が潜む。

(3)新鮮で健康に良い栄養豊かな食品の供給体制強化

〇パンデミックによって国内の食料供給体制が抱える不安定性の問題が深刻化し、貧困層に対する食料支援や学校給食の無償化などを強化する必要性が増している。

(4)公正な事業展開の実現

〇長年にわたり食料供給の改善事業から取り残されてきた農村部や貧困地区において、公正な利益を提供するための投資と支援事業を強化する。

学ぶべき輸出大国の供給改革

こうした4本柱の方針に基づき、農務省が2025年度までに取り組む主な事業は次の通りだ(表参照)。

(表)米国食料供給体制の改革計画の事業と予算

(A)生産分野

①有機農業への転換支援(予算は総額3億ドル・約400億円。先進的な有機農家による新規参入者への指導促進、土壌対策や作物保険料に対する直接補助、販売市場の開拓支援などの事業)

②都市農業への支援(7500万ドル・約100億円。都市および都市近郊の農業振興と市民農園活動の促進、農家への直接補助、緑地空間の保持と排出ガス抑制に果たす都市農業機能の市民広報活動を推進する団体への資金援助など)

(B)加工分野

①(大手パッカーが資本参加しない)地方の中小食肉加工企業に対する援助(3億7500万ドル・約500億円。工場の新設・拡大・設備の導入に対する補助事業)

②食肉以外の食料品供給網のインフラ投資(6億ドル・約800億円。冷蔵・冷凍施設や冷蔵トラックを含む、加工・貯蔵・輸送等に必要なインフラ投資事業)

(C)集荷・配送分野

①集荷配送ルートの短縮化による食料供給のローカル化を促進する投資事業(4億ドル・約530億円。農産物の加工・流通・集荷に係る地方の中小企業・団体を支援する「地域食料ビジネスセンター」の創設など)

②学校給食に対する地元産食材の供給促進(6000万ドル・約80億円。学校給食のローカル化をいっそう促進する地方自治体への資金援助)

(D)食料支援分野

①〝買い物弱者″に対する食料配布の支援を行う地方自治体等への補助金増額(1億5500万ドル・約200億円)

②ファーマーズマーケットを通じて高齢者への青果物供給を支援する自治体等への補助金増額(5000万ドル・約65億円。初夏から秋にかけたファーマーズマーケット・シーズン中の支援額を現在の低所得高齢者一人当たり20~50ドル水準から全州で50ドル・約6700円へ引き上げる)

農務省はこれらの他にも様々な事業展開を計画しているが、注目すべきはその多くが、日本のJAグループが長年にわたり推進してきた「地産地消」の活動と軌を一にする、食料供給体制のローカル化という基本方針だ。

また、ローカル化に必要なインフラ施設への大規模な財政出動や学校給食への地元産食材の供給支援など、日本政府にも参考となる点が少なくない。

さらに、公表された食料供給体制の改革計画によってインフレを短期間に抑制するのは困難だが、この計画が米国のみならず多くの先進諸国の農業政策へ中長期的な影響を与える可能性は大きく、各事業の今後の進展が注目される(次号では、改革計画に対する米国内の評価や課題について報告する)。

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