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Tuesday, July 5, 2022

【バイデン農政と中間選挙】食料供給体制の改革(下)~歴史的な大転換への評価は【エッセイスト 薄井寛】 - 農業協同組合新聞

農政:バイデン農政と中間選挙

新型コロナ感染拡大とロシアのウクライナ侵攻によって脆弱性を露呈した米国の食料供給体制。その抜本的な改革計画を6月1日に明らかにしたビルサック農務長官は、「食料生産の効率性と柔軟性との均衡を図る必要がある」と強調した。農業生産の効率性を何よりも優先させてきた農務省としては、まさに歴史的な大転換ともいえる。

多様な団体が支持を表明

前号(6月21日)で報告したように、「地域内供給の重視」、「有機農業と都市農業への支援」、「学校給食への地場産供給増などの栄養政策」を基本方針とする改革計画は、さながら〝地産地消の米国版″だ。

農業生産力の分散化とローカル化を促進し、多くの生産地区で集荷、加工、配送・保管に必要なインフラ投資を行うため、総額22億ドル(約3兆円)に及ぶ巨額の予算が投入される。

またこの計画では、一握りの食肉パッカーや巨大なスーパーマーケットが支配する食料供給体制を是正するため、中小の家族経営農家と地方の関連企業やNGOなどが主な支援対象に位置付けられた。

そこには、地域経済の活性化対策を強化し、農村部における野党共和党支持の保守的な中間所得層へ食い込もうとする、11月の中間選挙に向けたバイデン政権の政治的な狙いが透けて見える。

それでも、多くの一般紙や農業関係メディアはこの改革計画を詳しく解説し、農業団体などの支持表明が積極的に伝えられた。

例えば、全米農協協議会のコナー会長は、「食料供給網の柔軟性に加え、(寡占化に対抗して)競争と公正を保証しようとする農務省の改革計画は米国農業の将来にとって極めて重要であり、農家と消費者、そして農村社会にとって真の利益となるような供給網の変革を実現するため、農協組織は農務省のパートナーとして取り組んでいく」と述べた。

また、中小の家族経営農家を組織する全米農民連盟(民主党系)のラルー会長は、「農務省の改革計画は我々農民連盟の長年にわたる主張と多くの点で一致している」と高く評価し、同省への全面的な協力を約束した。

青年農業者連盟のガルシア・ポランコ政策部長は、「地方の食料供給システムと直結するようなビジネスを多くの農業青年は望んでおり、(4億ドルの投入で創設される)地域食料ビジネスセンターが多様な支援を提供してくれる」と期待する。

さらに、有機農業推進協会のトム・チャップマン専務は次のように述べ、改革計画が打ち出した有機農業への転換支援を歓迎した。

「米国の有機農産物市場は630億ドル規模(8兆円超)へ拡大したが、(需要増大に向け)生産農家の規模拡大が必要だ。有機農産物の生産増に向けた今回の歴史的な投資は、アメリカの有機農業にとって大きな勝利だ」

だが、大規模農家を会員の核とする米国最大の農業団体で、野党共和党系のファーム・ビューローは7月4日現在、農務省の食料供給改革計画に何らの評価も下していない。共和党の農業関係議員が同計画に強く反発しているためだと推測される。

下院農業委員会の共和党有力メンバーであるグレン・トンプソン議員(ペンシルベニア州)は、「有機農業への補助金を増やす一方で、大手のアグリビジネスを非難するような農務省の改革計画は、米国農業の直面する課題に向き合っていないし、農家が苦しむインフレとコスト増を完全に無視した」と、厳しく批判する。

また、上院農業委員会のジョン・ブーツマン議員(共和党、アーカンソー州)も、「農務省の今回の予算措置は(昨年の新型コロナ対策救済計画法に基づく)一時的な支出に過ぎず、食料供給体制の改革にはほど遠い。世界的な食料問題を踏まえるなら、農務省の目指す優先順位は誤りだ」と反発した。

即効性に乏しい政治的効果

実際、今回の改革計画には課題も少なくない。

第一は農家が期待する即効性の欠如だ。食料生産のローカル化に向けた投資事業などが2022~25年度の間に順次実施されていくものの、供給網の安定化や農村部での雇用促進には時間がかかる。

それに、生産コスト増による農業経営の悪化(グラフ参照)に対し、農務省の改革計画は必要な対策を打ち出していない。

(表)農業生産費の増大で減少へ転じるまた、農務省の主要政策である価格支持や作物保険、輸出奨励、外国の不公正な貿易慣行や自然災害等の救済補助が大規模農家優遇の仕組みを維持する限り、食料供給体制の真の改革は実現しないとの手厳しい指摘が伝えられる。

さらには、今回の改革計画によって議会における食料農業政策の議論がいっそう党派性を帯び、民主・共和両党の対立を激化させるとの見方もある。

上下両院の農業委員会は次期農業法案(2023年10月成立予定)の議論を開始しているが、本年11月の中間選挙を前に民主党側は中小農家の利益と食料供給体制のローカル化などを強く主張するのに対し、共和党側は大規模農家とアグリビジネスの利益を代弁してバイデン農政批判を強める可能性が高まるということだ。

そのため、中間選挙の結果次第では、農務省が推進する食料供給改革のみならず、2023年農業法の方向性も不透明感を増すことになるかもしれない。

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