ウクライナに侵攻したロシアが欧州への天然ガス供給量を激減させた。欧州連合(EU)による経済制裁に対する報復とみられる。エネルギー危機に揺れるEUは、冬場のガス不足に備えて消費量の削減策で合意したが、全体の約40%を依存してきたロシア産を補うには不十分だ。ドイツでは「脱原発」の後退も現実味を帯びており、EUはプーチン政権の報復戦術に苦しむ。(パリ・谷悠己、モスクワ・小柳悠志)
◆ガス価格が急騰
ロシア国営ガスプロム社は27日、ドイツにつながるパイプライン「ノルドストリーム」の供給量を最大値の20%にまで削減すると発表した。すでに6月中旬から供給量が40%にまで減らされていた。
この動きを受け、欧州のガス価格は急騰した。1年前は1メガワット時当たり50ユーロ(約6900円)を切っていた価格は190ユーロ台に突入。フォンデアライエン欧州委員長は「ガスを武器にした脅迫」と反発する。
特に、エネルギーの20%近くをロシア産ガスに依存してきたドイツの衝撃は大きい。稼働中の原発3基を今年中に停止して「脱原発」を達成する計画の見直し議論も高まっている。
◆ロシア「欧米が部品修理しないから」
ロシアは、供給削減は制裁を理由に部品修理に応じない欧米メーカーに責任があると主張する。プーチン大統領は19日の記者会見で「ガスプロムはどれだけでも供給できるが、欧米がその手段を閉じている」と制裁解除を求めた。
ロシアが供給を完全停止させる危惧も高まり、EUのエネルギー相会合は26日、加盟国が8月〜来年3月のガス使用量を15%削減する案で合意した。450億立方メートルに相当する。
しかし加盟国の反発に考慮して多くの例外規定が設けられ、実質的な削減予定量は300億立方メートルに後退。昨年のロシア産ガス輸入量1550億立方メートルの5分の1で「厳冬の需要には遠く及ばない量」(フランス紙フィガロ)にとどまる。
◆親ロシア政権の誕生が狙いか
ロシアの揺さぶりは、EU内の対立をあぶり出した。仏紙リベラシオンは、当初案に反発したスペインとポルトガル、ギリシャは2010年の欧州債務危機で「EUに見放された」との恨みから「EU主導国ドイツのガス不足を助けることに消極的」と報じた。最終案に唯一反対したハンガリーは、独自にロシアへ供給拡大を申し入れた。
ロシアの政治学者タチアナ・スタノバヤ氏は米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿で「プーチン氏は、インフレやエネルギー価格高騰によって、欧州で親ロ政権が生まれると信じている」と指摘した。実際、フランスでは、過去にプーチン氏を称賛していたマリーヌ・ルペン氏の極右政党「国民連合」が、6月の国民議会(下院)選挙で伸長。9月のイタリア総選挙でも極右政党が政権入りする可能性があり、プーチン氏の分断工作が奏功しつつある。
ガスの代替調達先を確保するため、強権体制下の資源国にすり寄る動きも目立つ。すでにフォンデアライエン氏がアゼルバイジャン、イタリアのドラギ首相がアルジェリアを訪問。マクロン仏大統領は28日、18年の記者殺害事件後初めてEU入りしたサウジアラビアのムハンマド皇太子と会談する。こうした国々へのガス依存が高まれば、新たなリスクが生じるとの懸念も出ている。
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