医薬品の供給不足が深刻化している。厚生労働省は国内の医薬品の8割を後発薬にする方針を掲げてきた。一方、後発薬メーカーでは、収益性を高めにくい産業構造も遠因に品質不正問題が頻発。生産が滞り供給不足に陥った。政府はメーカーに増産要請を出すとともに産業構造の改善に向けた検討を進める。医薬品の持続的な安定供給には国と企業が一体となった長期的な対応が求められる。(安川結野、大阪・市川哲寛)
後発薬、品質不正相次ぐ 少量多品目生産で効率悪く
医薬品の供給不足が表面化し始めたのは2021年ごろ。後発薬メーカーで製造や品質の管理不正などが相次いで発覚したことに端を発する。これにより業務停止処分が10以上の後発薬メーカーに出され、長期的な製造、出荷の縮小が起きた。
厚労省は増加する医療費を抑える目的で先発品より価格が低い後発薬の使用拡大を進めてきた。21年度の国内における後発薬の占める割合は数量ベースで約8割に到達。政府の後押しもあり後発薬は医療を大きく支えてきたが、その分、生産停止や縮小の影響も拡大した。さらに新型コロナウイルスやインフルエンザといった感染症の流行も重なり、医薬品供給不足が深刻化。今もその状態が続く。
後発薬メーカーは、生産効率が低い少量多品目生産に陥る傾向にある。要因として、特許が切れた複数の品目を同時期に開発・市場投入することにより、手がける製品が多品目となる。また医薬品の安定供給義務により一定期間は出荷が求められるため、少量でも生産し続けなければならないことも挙げられる。品質軽視という問題はもちろん、開発・供給するほど生産効率が悪化する構造が、不正を招いた側面もある。
また後発薬は複数のメーカーが取り扱う。医薬品の効果そのものでの差別化が難しく、医療機関や薬局への納入価格で差別化を図ることになる。納入価格を下げると薬価改定で製品の価格引き下げを招き、さらに収益性が下がるという悪循環に陥る。
医薬品の供給不足の解消について武見敬三厚労相は、「後発医薬品を中心としたこの供給不安について、少量多品目生産といった産業構造上の課題も指摘されており、検討会での検討を進める」と方向性を示す。収益性や産業構造の見直しを進めるため、厚労省の専門家会議は後発薬の安定供給に向けた議論を開始。安定供給に貢献しない企業の新規参入を抑制するほか、医療上の必要性や市場シェアの低い品目の整理や、企業の再編促進策などの議論が進む。後発薬の使用推進の中で起きた供給不足という問題の解決に向け、年内にも対策案をとりまとめる見込みだ。
在庫切り崩し・新工場建設で対応
医薬品供給不足が長期化する中、増産要請に応えるため、メーカーは対応を急ぐ。後発医薬品大手では需要の多い品目での増産を続ける。さらなる増産に向け新工場建設などを進める。
沢井製薬(大阪市淀川区)は国から増産要請のあったせき止め薬や風邪薬などは「急な増産は難しいものもある」(木村元彦社長)として適正在庫30%増で対応している。それでも在庫切り崩し局面にあり、適正在庫への増産を検討している。限定出荷品目で20%増産する製品では12月の国の要請期間終了後も増産を続ける方針。
第二九州工場(福岡県飯塚市)では新固形剤棟を建設中で24年に出荷開始予定。旧小林化工を引き継いだトラストファーマテック(福井県あわら市)では6月に出荷を始めた。これらで年産60億錠の増産で全社で年産215億錠の規模になる。品質確認検査で不正があった胃炎薬「テプレノン」は全社売上高の1%未満で、回収などによる大きな影響はない見込み。「会社全体として反省する。業界トップを走るつもりで計画見直しはない」(同)と引き締める。
東和薬品もせき止め薬などを1年前の50%増で生産している。全社では3年連続で年間10億規模以上の増産体制を築いて余力はほとんどなく「残業代、休日出勤代を出せば増産できるわけでない」(吉田逸郎社長)と既存工場での増産は厳しい状況を説明する。
山形工場(山形県上山市)では24年稼働予定で年産能力35億錠の第三固形製剤棟と25年稼働予定で同バイアル550万本の第二無菌製剤棟が完成した。総投資額は549億円。「経営上できない規模を借り入れた」(同)と経営負荷は大きい。
グループ会社のジェイドルフ製薬(滋賀県甲賀市)が沖縄県初の医療用医薬品原薬工場を東村に24年4月の稼働を目指す。パイナップルの茎から痔疾治療薬や壊死組織除去剤の原薬を抽出する。国内で最終製品までの一貫生産体制を築いて安定供給につなげる。
吉田社長は「各社が増産への課題を持つ。業界挙げて取り組まないと長期的には不安定だ」と捉え、安定供給に向けて産業構造のあり方などで国や行政の支援を求める方針。
富山市の後発薬メーカーの日医工は、販売品目の集約化や同種同効成分製剤への統合を進め、生産効率の向上を図る。グループ内で重複していた製品の製造を一拠点に集約して生産効率向上を図るなど、品質管理や生産体制を見直す。
一方で、短期的な対応は限界がある。後発薬メーカーの関係者からは、「原薬購入は年間契約が多い。政府からの増産要請に対応するにも調達量を増やす交渉は難しく、交渉できたとしても十分な量を確保できるかは不透明だ」という声が挙がる。政府の検討会でも、医薬品の原料となる原薬について、安全性の基準や国内の薬価の観点から、中国やインドへの依存度が高いことが指摘される。原薬調達においては短期的な課題解決は難しいものの、既存地域から東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国など輸入元の多元化を進めるほか、国内での原薬製造能力拡大などに長期的に取り組むなど、改善が求められる。
官民で産業構造改善必須
医薬供給不足の一因となった後発薬メーカーの不正問題の背景には、ある程度効率を度外視して製造と出荷を優先せざるを得ないという後発薬の産業構造がある。医療現場に不可欠な後発薬を持続的に安定供給するには、産業構造の改善が必要だ。
また不正防止には品質を重視するという後発薬業界の風土の醸成も欠かせない。政府検討会では、後発薬メーカーに対して医薬品製造品質管理基準(GMP)の運用ができる人材の育成の仕組みや、品質に対する取り組みを可視化できる評価指標の活用などが議論される。政府提案に後発薬メーカーが協力して取り組むなど、医薬品の安定供給に向け政府と後発薬メーカーが一体となった対応が求められる。
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