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Wednesday, April 8, 2020

電力供給を止めず、人工呼吸器を動かし続けるために:新型コロナウイルス感染症と米電力会社の闘い|WIRED.jp - WIRED.jp

電力供給を担う発電所や送配電施設のオペレーターたちが、もし新型コロナウイルス感染症で倒れてしまったら──。医療機関に電力が供給されず人工呼吸器が止まるような最悪の事態を防ぐべく、米国の電力事業者や送電事業者たちが動きだした。そして業界のみならず、わたしたち一人ひとりにもできることがある。

WIRED(US)

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電力産業は過去の大規模災害時の経験を生かし、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が続く間も電力供給を絶やさず、人工呼吸器を動かし続けている。AFTON ALMARAZ/GETTY IMAGES

観光名所として知られるナイアガラの滝。そこから数キロメートルのところにあるニューヨーク州電力公社(NYPA)のナイアガラ発電所では、管制室の従業員たちが1日に2回の頻度で管制室の外に出る。入れ替わりで清掃スタッフが部屋に入り、ニューヨーク州最大の発電所を制御する大量のコンピューターのモニターや配電盤を消毒している。

施設の外では、医療スタッフがシフトの交代で出勤する従業員たちを検温し、いくつかの質問をする。「最近、外国を旅行しましたか?」「呼吸器感染症の兆候がありますか?」

これが米国最大の州営電力事業者の新たな日常である。新型コロナウイルスの感染者数が急増する事態を受け、NYPAではパンデミック(世界的大流行)の対策に取り組んでいるのだ。

発電業務を担う少数のオペレーターたち

約1,900人いるNYPAの従業員の大半は、リモートワークで対応している。だが、発電所の管制室で送電業務を担う従業員たちにとって、遠隔での業務という選択肢はない。ニューヨーク州の送電網への電力供給を絶やさぬように、発電所に付きっきりでいなければならない。

管制室はNYPAの発電所の中枢部である。NYPAの発電所はほとんどが水力発電所であり、ニューヨーク州の全電力の約4分の1を供給している。管制室は人間を入れたシャーレ(ペトリ皿)のような空間でもある。狭い室内には従業員が頻繁に触れるスイッチなどの操作系で溢れており、そこに5〜6人が何時間も連続勤務している。

この状況では社会距離戦略やリモートワークは選択肢にない。このため、NYPAは新型コロナウイルスへの感染防止策として、定期的な検診と徹底した清掃・消毒を続けている。

問題は、どの発電所も管制室のわずか数人のオペレーターに頼っていることだ。こうしたオペレーターたちは数々の専門技術をもっているので、たとえ病気になっても簡単に代わりがきかない。「これらの従業員たちは、本当に、本当に重要な存在なのです」と、NYPAの社長兼最高経営責任者(CEO)のギル・キニョネスは言う。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が悪化すれば、NYPAはウイルスが外界から発電所に入ってくるリスクを下げるために、管制室のオペレーターに発電所内への住み込みを命じるかもしれないとキニョネスは言う。かなり思い切った対策のように思えるが、NYPAでは緊急時に同様の措置をとったことがあるという。1度目は2003年の北米大停電の発生時、2度目はハリケーン「サンディ」の到来時だ。

北米に9つある地域送電会社のPJMの送電担当上級副社長のマイク・ブライソンによると、同社は15年前からパンデミック対策を策定しているが、この対策が全面的に実施されたのは今回が初めてだという。PJMは発電所からワシントンD.C.を含む米東海岸13州の送電網を管理しており、数百万人に電気を届けている大手企業のひとつだ。

PJMでは3月第3週の時点で、フルタイムの従業員750人のうち約80パーセントが在宅勤務していた。一方で、コントロールセンターに常駐する従業員が最小限は必要になる。同社は緊急時の計画の一環としてバックアップのセンターを数年前に設置しており、現在その2カ所にオペレーターを分散させることで、従業員間の接触を制限している。

電力供給を絶やさないために

電力産業は過去の大規模災害時の経験を生かすことで、新型コロナウイルスのパンデミックが続く間も電力供給を絶やさず、人工呼吸器を動かし続けている。電力分野は、米国政府が「重要インフラ」として指定した16分野のひとつで、通信、運輸、食糧、水道などに並ぶ。いずれの分野も米国にとって必要不可欠であることから、国家の緊急時にも業務を維持する義務がある。

「わたしたちは初期対応者として扱われなければなりません」と、民間の電力事業者の業界団体であるエジソン電気協会(EEI)の安全・危機管理担当副社長スコット・アーロンソンは言う。「業界全体のいまの目標は、できる限り社会の皆さんの健康を保つことと、社会の機能を維持させることです。このような目標を達成するにあたり、電力不足は間違いなく難しい問題になります」

米国の送電網は、民間企業や州が所有する施設をさまざまな送電事業者がつないでおり、まるでパッチワークのような構成になっている。アーロンソンによると、こうした仕組みのまま国家の緊急時に電力供給を維持しようとすると、大きな問題が生じるという。どの事業者が責任を負い、調整役になるのかを明確にすることが難しいのだ。

電力事業者間の連携の重要性

こうした際の責任の大半は、一般的に非営利の北米電力信頼度協議会(NERC)や米連邦エネルギー規制委員会(FERC)のようなエネルギー産業の公的機関が負うことになる。だが、新型コロナウイスルのアウトブレイク(集団感染)が続く間は、電力事業者のCEOたちで構成される電力サブセクター調整協議会(ESCC)という一般にはあまり知られていない組織が、連邦政府と全米の数千にもなる電力事業者との最初の調整役を果たす。

アーロンソンによると、この組織は3月に入ってから週2回のミーティングを続けているという。電力事業者が新型コロナウイルスに対する最善の策を打てるように、また電力事業の運営を滞りなく維持するうえで必要な物資を政府に報告できるようにするためだ。

こうした緊密な連携は、多くの予測が示している通り、新型コロナウイルスのパンデミックが悪化する場合に特に重要になるだろう。ほとんどの電力事業者は、少なくともひとつの相互支援グループと、電力事業者間で大災害時に助け合う非公式ネットワークのひとつに属している。こうした互助ネットワーク一般的に、停電が長期化する恐れがある大型の暴風雨のあとに必要になる。

このネットワークは、新型コロナウイルスのパンデミックが続いた場合にも役立つ可能性がある。例えば、ある電力事業者が発電所を管理するオペレーターが足りなくなると気づいた際に、発電所の運営を確実に続けられるように、ほかの会社から熟練したオペレーターを派遣してもらうようなことができるかもしれない。

最小限の人員で発電所を運営するという難題

これまでのところ、電力事業者と送電会社は自力でうまく対処している。発電所では新型コロナウイルスの感染例が少数報告されているが、発電所の電力供給能力にはまだ影響が出ていない。

必要最小限の人員で発電所を運営するという難題について、テキサス大学電気機械技術センター(CEM)所長のロバート・ヘブナーは、企業や店舗などが休業して多くの人が在宅勤務するようになったことで電力需要が減り、ある程度は相殺されていると説明する。「電力需要の減少は、電力事業者にひと息つく余裕を与えています」

シカゴ大学エネルギー政策研究所(EPIC)の最近の研究によると、イタリアでは新型コロナウイルスの感染例の激増に伴い、電力需要が18パーセント減少した。中国での電力需要も新型コロナウイルスのパンデミックの結果、減少しているという。PJMのブライソンによると、送電担当者である彼は3月下旬までの数週間で電力需要が約6パーセント減となったことを確認しているが、パンデミックが悪化すればさらなる減少が予想されるという。

一般的に米国で電力供給の問題が生じるのは、火災やハリケーンなどによって送電網が過負荷状態になるか、物理的に損傷するかのいずれかの場合である。新型コロナウイルス自体は送電網への直接の脅威ではないとはいえ、万が一それ以外の自然災害に見舞われたとしたら、被災状況は悪化しかねない。発電所の操業を維持し、ほかの電力事業者との調整を図り、損傷したインフラを修復する技術者や送電担当者の確保が制限されることになるからだ。

電力を止めないために、わたしたちができること

いま新型コロナウイルスの研究者たちにとっての共通の疑問は、今年後半にパンデミックの第2波が来るかどうかである。20世紀初頭にスペインかぜのパンデミックが続いたとき、流行の第2波は第1波よりも深刻だったことが明らかになっている。新型コロナウイルスが今年後半に再び大流行したら、米国における安定した電力供給への深刻な脅威となる可能性があると、米エネルギー省の元副長官でコロンビア大学グローバル・エナジー・ポリシー・センターの上席研究員であるジョン・マクウィリアムスは指摘する。

「今回の危機が秋まで続けば、ハリケーンシーズンに突入してしまいます」と、マクウィリアムスは言う。「電力事業者は現時点ではうまく対処していますが、運悪くハリケーンシーズンが到来したら、損傷した箇所の修復や電力の復旧に対応できる従業員の数が、いまより限られるようになってしまいます。そうなれば、どの事業者も疲弊してしまうでしょう」

こうした見方にPJMのブライソンも同意する。「個別の災害には対応できても、複数の災害が重なり始める複合災害に発展してしまったら、対応ははるかに難しくなります」と、ブライソンは言う。巨大なハリケーンへの対応に追われるなか、多くの従業員たちが新型コロナウイルス感染症で欠勤することになれば、対応は極めて困難なものになることだろう。

その意味では、医療用品の生産を続けたり人工呼吸器を動かし続けたりするために必要な電力を供給し続けられるかどうかは、わたしたちがいま新型コロナウイルスの流行曲線を平坦化できるかによるところが大きい。新型コロナウイルスだけでも厄介なうえに、停電の心配までしなければならないのだ。

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