静岡県栽培漁業の拠点として種苗生産に取り組む県温水利用研究センター(御前崎市佐倉)は、10月で開設から50周年を迎えた。種苗生産は卵から稚魚になるまでの最も病気に弱い期間を人の手で扱うため、常に失敗と隣り合わせという。試行錯誤の日々と今後の抱負について聞いた。
―同センターの概要は。
「中部電力浜岡原発の温排水を水産面に有効活用する目的で1972年に設立した。県の委託を受け県漁業協同組合連合会が運営している。職員は13人。マダイ、ヒラメ、トラフグなど7種類の種苗を生産している。敷地面積は1万3350平方メートル。小中高生の社会科見学も受け入れている」
―御前崎市の特産品でもあるクエの生産状況は。
「御前崎港では年間6トンの漁獲量があったが減少し、96年から種苗生産の技術開発を始めた。生後30日は他の魚種に比べて特に病気に弱い。海産魚特有の感染病のウイルス性神経壊死[えし]症(VNN)にかかると全滅する。今年は2年ぶりに約1万5千尾の生産に成功した。クエの種苗生産をしているのは全国でも数カ所しかない。私たちは20年以上続けている意地と誇りがある。回遊しない魚なので、放流すればするほど漁獲量の向上につながる。まだまだ頑張りたい」
―2011年の東日本大震災に伴って浜岡原発が全炉停止し、1日1万5千トンの温排水の供給が途絶えた。どう乗り越えたか。
「温排水は自然海水より水温が7度高く、冬場でも種苗生産が可能だったため、栽培スケジュールを大幅に変更せざるを得なかった。県にボイラーを倍増してもらった。病気にかかりやすい生後30日はボイラーで加温できる水槽を使用し、30日以降は別の水槽に移し替えるなど工夫した。防疫面も強化した。水質を改善して魚の浸透圧調整の負担を軽減し、活力をアップさせることに的を絞って効果を得た」
―今後の抱負は。
「同じ担当者が例年と同じように栽培をしても、突如失敗してしまうことがある。再現性が成立しにくいのが種苗生産の怖いところ。自分も若い頃はヒラメとマダイを担当し、一晩で全滅した苦い経験がある。無事に放流し、2、3年後に漁業者の方に『魚増えたぞ』と言ってもらえた時は一番やりがいを感じる。種苗の安定供給へ地道に取り組んでいきたい」
(聞き手=御前崎支局・木村祐太)
すずき・よしのり 県漁業協同組合連合会職員。本部に2年間勤めた後、1989年に県温水利用研究センターへ赴任。2019年から現職。58歳。
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