日本最大の火力発電会社、JERAが燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しない火力発電所の実現に動き出した。まず当初計画より1年前倒しし、2023年度中にアンモニアを20%混ぜて運転する低炭素火力を始める。世界最大級の取扱量を誇る液化天然ガス(LNG)と同様に、アンモニアの安定調達へサプライチェーン(供給網)の構築を急ぐ。小野田聡社長は「水素・アンモニア連合をつくり、安価に発電できる」と本格的な商用運転をにらんでいる。
アジアの移行、アンモニアで後押し
再生可能エネルギーと低炭素火力を組み合わせたクリーンエネルギー供給基盤を提供し、アジアを中心とした世界の健全な成長と発展に貢献する。これが5月に策定した「2035年に向けた新たなビジョン」だ。19年の「2025年に向けたビジョン」では「LNGと再エネ」を掲げたが、「再エネと低炭素火力」に変えた。
脱炭素の議論を主導する欧州の主張は「すべての化石燃料をすぐにやめ、再エネに置き換えろ」だ。国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)の場でもこうした議論を展開し、世界に押し付けようとしていた。
欧州の議論を巡り、実はアジア諸国は非常に困っている。アジアでは欧州のように再エネが安く手に入らないし、国境をまたいだ送電網もない。何しろ経済成長が著しく旺盛な電力需要に対応しつつ、脱炭素を実現するには欧州流の〝一本足打法〟では対応できないからだ。
20年に公表した「JERAゼロエミッション2050」は、①再エネとゼロエミッション火力の相互補完②国・地域に最適なロードマップの策定③スマートトランジション(賢明な移行)の採用――の3つのアプローチで50年に国内外の事業から排出されるCO2の実質ゼロを目指している。
新たに6割超削減目標
日本版ロードマップは22年5月に更新した。国内事業からのCO2排出の削減量について、35年度までに13年度比60%以上を目指す目標を新たに打ち出した。
再エネは増やす一方で、その調整力として火力発電を使う。供給力を増やしながら再エネの変動を吸収できる。しかし火力を増やせばCO2が増える。この矛盾を解決するのが、燃焼時にCO2を排出しないアンモニアや水素の活用だ。50年のカーボンニュートラルという目標は同じだが、欧州と異なる日本流がアジアには適用しやすい。
当社はアジア各国の大手発電事業者を中心に出資や協業を通じて脱炭素を後押しする。発行済み株式の22%を持つバングラデシュ最大の発電事業者、サミット・パワーとは脱炭素ロードマップの策定に向けた覚書を22年4月に締結した。
約27%出資するフィリピン大手のアボイティス・パワーは約460万キロワットの発電容量を持ち、うち6割を石炭火力に依存する。経済成長に伴い30年までに発電容量を倍増させる計画で、再エネは370万キロワット、石炭に比べ環境負荷の小さいLNGは100万キロワット追加導入する。石炭の比率は半減するもののゼロにはならない。そこで石炭火力やLNG火力についてもアンモニアや水素を活用し、CO2排出量を減らしたい意向だ。
20%混焼、1年前倒し
当社は21年度から石炭火力の碧南火力発電所(愛知県碧南市)でアンモニア混焼の実証事業を始めた。IHIと共同で新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受けて取り組んでいる。22年5月には初めてのトランジションボンドを発行し、200億円を調達した。今後、4号機のバーナーを改造し、アンモニアの受け入れタンクや配管を設置する。アンモニアを20%混ぜて運転する開始時期は当初24年度を計画していたが、1年前倒しして23年度中とするめどが立った。
商用運転開始を27年度としたのは、燃料アンモニアのサプライチェーン構築が課題になるからだ。年間50万トンの燃料アンモニア調達を15~20年長期契約する前提で国際競争入札を実施。40件以上の申し込みがあり、それ以外の問い合わせも多い。
さらにアジアの発電事業者などと消費側の「水素・アンモニア連合」をつくっておけば、製造側も乗りやすい。非常に太いサプライチェーンを構築することで、安いアンモニアを使った安いアンモニア発電が始められる。できることから始め、脱炭素社会を目指す。これがスマートトランジションだ。
低炭素化や再エネ、電力の安定供給が前提
「『化石燃料×(バツ)、再エネ○(マル)』という単純な構図ではなく、LNGにもしばらく活躍の場がある」。小野田聡社長は説明する。ロシアによるウクライナ侵攻などに伴いエネルギー情勢は激変した。ドイツは脱原発を先送りしてLNGの調達を増やしている。石炭火力に大きく依存する東南アジアでは、LNGが脱炭素までの「トランジション燃料」に位置付けられる。LNGの低炭素化に寄与するのが燃やしてもCO2を排出しないアンモニアや水素だ。
アンモニアは肥料や工業用途に使われ、国内使用量は年間で約100万トン。出力100万キロワットの火力発電所で20%の混焼をすると、年間50万トンのアンモニアが必要になる。仮に2基で混焼するだけで現在の国内使用量に匹敵してしまう。そこでJERAは製造側では国内外の大手企業と、消費側ではアジアの発電事業者などと連携し、上流から下流までのサプライチェーン構築に乗り出した。
国際競争入札にあたり条件としたのは「グリーンアンモニア」か「ブルーアンモニア」だ。前者は太陽光や風力など再エネでつくった水素を使い製造する。後者は化石燃料から製造し、発生したCO2を回収・貯留する。マイナス33度で液体になるアンモニアは、マイナス253度で液体になる水素に比べると、輸送コストが安く済む。アンモニアは熱を加えてクラッキングという処理で簡単に水素に変わる。このためアンモニアと水素はサプライチェーンを兼用でき、大きな利点になるという。
大量生産が軌道に乗るまでアンモニアのコストは高い。そこで従来燃料との差額を国が補助するなどの振興策があれば「アンモニア発電の単価は下がっていくはずだ。再エネと同じように普及が進む」と期待している。
一方で再エネの拡大にも国内外で力を入れている。21年度末に170万キロワットだった出力を25年度に500万キロワットに引き上げる目標だ。例えば大規模洋上風力発電事業では英ガンフリートサンズのほか、台湾のフォルモサに出資している。出資先のノウハウを生かせるため、国内の洋上風力の公募案件に積極的に手を挙げていく。
電力の安定供給は事業の大前提だ。23年1~2月の冬季追加kW(供給力)公募では長期計画停止中の姉崎火力発電所5号機(千葉県市原市)などの供給を落札した。老朽化した発電所は維持費がかさみ、発電コストが高い。「ウクライナ侵攻などで安定供給が要求されており、kW公募やkWh(供給電力量)公募に前向きに取り組む」という。
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