[ニューヨーク 29日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 自動車からスマートフォンに至るまで、あらゆるメーカーを悩ませる根強い半導体不足が緩み始めている。生産の増加、需要の低迷、さらにはサプライチェーン(供給網)で川下の需要変動が上流に伝わるにつれて増幅される「ブルウィップ効果」により、半導体市場はまもなく供給不足が解消し、過剰に転じるかもしれない。
欧州の自動車メーカー最大手フォルクスワーゲン(VW)は28日、半導体不足が緩和しつつあり、その結果、今年下半期に電気自動車(EV)の生産を増やすと明らかにした。調査組織3Dセンターによると、暗号資産(仮想通貨)のマイニング(採掘)やゲーム用パソコンで使用されるグラフィックカードの価格は、新型コロナウイルスのパンデミック期には大きなプレミアムが乗っていたが、今ではほとんどが定価で販売されている。日経アジアによると、売上高で半導体製造世界最大手のサムスン電子は今月、在庫が膨らんでいるとして、納入業者に出荷を減らすよう要請した。
半導体企業は一斉に設備投資拡大に乗り出している。ハイテク業界の調査会社ガートナーの推計によると、半導体メーカーが今年計画している設備投資額は世界全体で1850億ドル。これは昨年より2割以上多く、2020年の1100億ドルを大きく上回る水準だ。
一方で需要も打撃を受けている。中国はロックダウンにより消費者の間でスマートフォンの新規購入意欲が減退。米クアルコムのパルキワラ最高財務責任者(CFO)は今月開かれたバンク・オブ・アメリカのイベントで、巨大な中国市場での需要軟化は世界が早期に半導体需給を均衡させるのに役立つと指摘した。世界が景気後退に見舞われれば、需要はもっと大きく落ち込むだろう。
ブルウィップ効果(むち効果)と呼ばれる作用がこうした変化を加速させる可能性がある。これは供給網の川下の需要変動が川上にいくほど増幅する現象。例えば、自動車メーカーは在庫切れで顧客を失望させたくないので、独インフィニオン・テクノロジーズのような企業に半導体を追加で発注する。そしてインフィニオンも同じ理由から納入業者に追加注文を出す。さらに悪いことに、部品の供給に制約を設ける仕組みが導入されれば、企業はいくらかでも供給量を確保するために注文を2倍に膨らませることもある。マッキンゼーによると、自動車メーカーと大手納入業者が今年発注する半導体は新車約1億2000万台分と予想されているが、これは自動車の販売見通しより40%余りも多い。
もしメーカーが供給過剰に気づいて注文をキャンセルすれば、ブルウィップ効果によって需要減の動きが川上に行くほど増幅し、その動きは供給不足が生じたときと同様に速いだろう。半導体不足は近く供給過剰に転換するかもしれない。
●背景となるニュース
*独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)のディース最高経営責任者(CEO)は28日、半導体不足緩和のおかげで、VWは最大市場のドイツと中国でEVを増産していると明らかにした。
*日経アジアは16日、売上高ベースで半導体世界最大手のサムスン電子が複数の納入業者に、在庫が膨らんだため装置や部品の出荷を遅らせたり、減らしたりするよう求めたと報じた。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
からの記事と詳細 ( コラム:緩み始めた半導体不足、供給過剰も サムスンは納入減要請 - ロイター (Reuters Japan) )
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